字幕の壁を越えた:ロサンゼルス 福永方人

福永方人P2月9日、米アカデミー賞授賞式がハリウッドで開かれた。前号のこの欄で、米配信大手ネットフリックスの作品が配信系で初めて作品賞を受賞すれば「革命の年になる」と書いたが、結果はさらに革命的だった。格差社会をコメディータッチで描いた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が、英語以外の作品では初の作品賞など最多の4冠に輝いたのだ。

韓国の長編映画はこれまでノミネートすらされたことがなかったが、一気に最高賞まで射止めた。ポン・ジュノ監督は近年、ハリウッドにも進出したが、韓国に戻って手がけた「純粋に韓国の映画」が最も世界で評価される結果となった。「自分の周囲の出来事を深く掘り下げた物語こそが、より世界の人々の心に響くのかもしれない」。受賞後の記者会見での言葉は示唆に富む。

ネットフリックス作品は、ノミネート数が全24部門で24(同一部門に複数のノミネートあり)と配給会社別では最多だったが、受賞は助演女優賞(「マリッジ・ストーリー」のローラ・ダーンさん)と長編ドキュメンタリー賞(「アメリカン・ファクトリー」)の2部門にとどまった。

新作映画をテレビやスマートフォン向けに配信するネットフリックスは、既存の映画産業にとって脅威となっている。受賞作を決める投票権を持つ「映画芸術科学アカデミー」の会員はほとんどが映画関係者で、配信ビジネスへの反発がまだ根強いとみられる。

一方で、パラサイトの作品賞受賞にはネットフリックスの影響があるとも指摘されている。米国内の有料会員は6000万人超に上り、オリジナル作品の半数以上は英語以外とされる。ネットフリックスの普及により自宅などで字幕作品を見る習慣が広がり、映画館でも非英語圏の作品への抵抗感が薄れているという見方だ。

ポン監督は1月5日のゴールデン・グローブ賞でパラサイトが外国語映画賞を受賞した際、「字幕という小さな壁を越えれば、もっと多くの素晴らしい映画に出会えるはずだ」というメッセージを発していた。だが実は、その時すでに「壁」はなくなっていたのかもしれない。(2020年3月 ロサンゼルス支局)

ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞受賞後に記者会見するポン・ジュノ監督(中央)。右は主演のソン・ガンホさん=米西部カリフォルニア州ビバリーヒルズで1月5日、福永方人撮影