急ぎすぎの首都移転計画:ジャカルタ 竹内彩

ジャカルタ武内インドネシアの首都移転計画が大方の予想に反して進んでいる。1月にはソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が計画への投資の意向を示し、審議会のメンバーに入った。他にも著名人が名を連ね、海外からの投資を呼び込む「看板」が掲げられた格好だ。実現に懐疑的な見方も根強い中、ジョコ大統領は先頭に立ち突っ走っている。でも本当にこのまま進んで大丈夫なのだろうか。

首都をジャカルタから移転する計画案が公になったのは、ジョコ氏が2019年4月の大統領選挙で再選を確実にした後だ。そして8月には約1200キロ離れたカリマンタン島東部を移転先に決め、24年から段階的に移転を開始すると打ち上げた。予定地は東カリマンタン州東部で近隣の街には空港や港がある。ただし現地はパーム油をとるアブラヤシの大規模農園などが広がり、開発はほぼゼロからのスタートだ。過去のインフラ事業をみれば、短期間で移転開始にこぎ着けるというのは非現実的に思える。それでもジョコ氏が24年にこだわるのは、任期末の同年までに道筋をつける必要があるからだろう。

現状では首都移転に関わる法令や国会承認はなく、大統領の指示だけが支えだ。ジョコ氏は規定で3選はなく、次の選挙では大統領の座を巡って政党内外で激しい駆け引きが行われることになる。トップの交代で政策が急転回することはよくあるが、首都移転は建設途中で投げ出すわけにはいかない。力技で進めれば野党だけでなく自党内にも禍根を残し、計画が頓挫する可能性さえ出てくると危惧する。無駄に広い大通りと、役所が入る予定だったビルだけがぽつんと建つ町の姿がどうしても頭をよぎる。

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首都移転先であるクタイ・クルタヌガラ県の草地。牛がのんびりと草をはんでいた=インドネシアのクタイ・クルタヌガラ県で2019年12月6日午後0時14分、金子淳撮影

ジャカルタのあるジャワ島だけが発展し、他の地域との格差解消が必要という移転の理念は理解できるし、首都移転が契機になるかもしれない。それでもジョコ政権は反対意見に謙虚に耳を傾けるべきだ。真っ先に移住を迫られる公務員や、野生のオランウータンの生息地でもあるカリマンタン島の自然保護団体が懸念の声を上げるのは、計画が実行されれば、これまで築いた生活や貴重な自然は取り返しがつかないからだ。反対や懸念にはさまざまな理由があり、それを乗り越えていくことは時間がかかっても遠回りにはならないと思う。(2020年3月 ジャカルタ支局)