隣国が見る日露平和条約交渉:モスクワ 大前仁

モスクワ大前安倍政権はロシアとの平和条約締結交渉を始めたが、安全保障の問題などが障害となり行き詰まっている。ロシアの隣国ベラルーシのセルゲイ・ラフマノフ前上院議員は、駐日大使も務めた知日派である。日露関係の現状や展望を尋ねた。

「ロシアのプーチン大統領も(平和条約問題について)何かしらの進展を図りたかったのではないかと思う」。ラフマノフ氏はこう指摘する。ロシアが2014年春に隣国ウクライナの南部クリミアを強制編入したことにより、プーチン氏への支持率が急騰した。だが5年が過ぎた今では「クリミアが引き起こしたロシア国内の熱狂は過ぎ去った」。そして支持基盤を弱めたプーチン氏は「(北方領土の引き渡しに反対する)世論を配慮しなければならなかった」とみなす。現段階で平和条約交渉を進展させる「唯一の手段は条約に署名しながらも(北方領土の)現状を変えないことだ」とも言う。これは「中間条約」と呼ばれる解決法だが、日本国内では反対論が根強い。

ラフマノフ氏は「日本にとって最も重要なのは島(北方領土)ではなく、安全保障のはずだ」と説く。

中国船が沖縄県の尖閣諸島の接続海域に侵入してきても、米国が対応していない点を取り上げ「日本は米国から保障を得られていない」と指摘。そのうえで「日本にとって中国やロシアとの関係改善が唯一の対応策になっていくはずだ」と話す。

平和条約交渉を進められない日露両国だが、どうすれば関係を拡大できるのか? ラフマノフ氏はロシア極東で人口流出が止まらない現状を指摘したうえで「ロシアは日本との協力を必要としている」と説く。そのうえで日露の経済協力についてベラルーシ企業も参加したいとの意向も示す。安倍政権は数年前から、極東開発を含めた対露関係の拡大に取り組んできたが、ラフマノフ氏は「この取り組みを政治(=北方領土問題)と密接にリンクしないようにするべきだ」とも主張する。

ラフマノフ氏の指摘はロシアの政府関係者や専門家の主張に近く、日本では受け入れがたい点もあるだろう。一方で「相手側」の物の見方を知るうえでは参考になる側面が少なくないと思う。(2020年1月 モスクワ支局)

20191113ベラルーシ、ラフマノフ
ベラルーシの駐日大使を務めていたセルゲイ・ラフマノフ前上院議員=ミンスクで2019年11月13日、大前仁撮影