11月11日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)に興味深いコラムが載った。
「世界の民主主義国家は、インドを信頼しようと必死だ。米国や日本、オーストラリアから英国に至るまで、インドを中国に対する不可欠な対抗勢力とみている。(中略)欧米のインドへの肩入れは、戦略的であり、感情的、知的、かつ金銭的でもある。欧米諸国は、モディ政権の暗部をあまり事実として認めたがらない」。筆者は外交専門の著名な英ジャーナリストだ。
「暗部」とは、ヒンズー至上主義のモディ政権による混乱を引き起こしているいくつかの政策だ。8月に北部ジャム・カシミール州の自治権をはく奪し多数の地元政治家や市民の拘束を続け、12月にはイスラム教徒以外の不法移民に国籍を認める改正国籍法案を議会で可決し、抗議デモが激化。直後に予定されていた日印首脳会談も延期になった。
印民間シンクタンクの若手研究員は「与党・インド人民党は人気が高いモディ氏(69)の引退後も政権を維持できるようヒンズー教徒の支持基盤固めと、『(最大野党の)国民会議派つぶし』を行っている」と見る。一方、「インドの景気後退は鮮明で、混乱を引き起こしている場合じゃない。しかもアッサム州でデモが激化するのなんて容易に分かるはずなのに、この州で日印首脳会談を設定した。インドのマネンジメント能力の欠如を宣伝しているようなものだ」とあきれ顔だ。
だが彼は「このコメントは匿名にして」と言った。インドではモディ政権を表立って批判するのを避けたがる学者や専門家は少なくない。このシンクタンクの幹部は「今はセンサーシップがすごい。下手なことを言えば職を失う」と明かす。ジャム・カシミール州での外国人記者の取材も12月時点でも許されていない。
ベテランの南アジアの外交官は「インドを好きか嫌いかに関わらず、我々はインドと付き合わざるを得ない」と漏らした。日本や欧米も対中戦略と経済的な魅力から、インドとうまくやるしかないという意味では同じ感覚かもしれない。だがこのまま黙認し続ければ、モディ政権の「暗部」はさらに拡大しかねない。(2020年1月 ニューデリー支局)