モルドバの火鍋 北京・浦松丈二

北京浦松東欧の秘境・モルドバ出身の女性が中国のSNS 上で話題になっている。中国内陸部の重慶で中国語を学び、重慶火鍋が好物だという24歳の瀟瀟(シャオシャオ)さん。流ちょうな重慶なまりの中国語が面白い。外国人タレントとして出演したバラエティー番組で次のようなコントを披露していた。

店員 「あなた中国語が話せるの?」

瀟瀟  「ええ、中国料理の4大体系も知ってるわ。清湯、トマト、麻辛、おしどりでしょう」

店員 「それは重慶火鍋のスープよ」

日本でも流ちょうな山形弁を操る外国人タレントがいるが、瀟瀟さんの役どころもそんなところなのかもしれない。

瀟瀟さんの重慶なまりを聞きながら、2008年5月に重慶も被災した四川大地震の取材で、方言が聞き取れず、苦労したことを思い出した。

避難所に身を寄せている中国人被災者に声をかけると「日本から来たの?」と驚かれ、感激されることもしばしばだった。

当時の中国は08年8月の北京五輪を成功させようと世界を意識してふるまっていた。北京五輪のスローガンは「一つの世界 一つの夢」。多くの中国人も「一つの世界」に生きていると信じていたと思う。今はどうか。「北京五輪のころは『一つの世界』と言っていた。普遍的な価値という言葉も聞かなくなった」。中国共産党の幹部数人に火鍋を囲みながら聞いてみた。

「『一つの世界』という訳は少しずれている。中国語では『同一個世界』で『同じ世界』と訳すべきだ。中国は人権など普遍的な価値全体は否定していないが、キリスト教やイスラム教など一神教的な世界観は受け入れていない」。日本語のうまい幹部がニュアンスの違いを解説する。

「同じ世界とは、この火鍋のように同じ鍋に羊肉も牛肉も海鮮もキノコも入れられる包容力の世界のことだ」。中国が目指すのは「一つの世界」への統一ではなく「同じ世界」への包容だと幹部はいうのだ。鍋なら日本にも韓国にもある。モルドバにはトマト味の鍋があるらしい。冬である。政治家たちも火鍋を囲んでみてはどうか。(中国総局 2019年12月)