タイムリーな「天気の子」 ロサンゼルス・福永方人

福永方人P米ハリウッドでは映画賞レースの季節が近づき、受賞を狙う米国内外の作品の公開や上映が相次いでいる。邦画で最も注目されるのは新海誠監督のアニメ映画「天気の子」だ。第92回米アカデミー賞の国際長編映画賞(旧外国語映画賞)部門の日本代表に選ばれ、長編アニメ部門にもエントリーされている。

風景や街並みの緻密な描写が「現実より美しい」とも言われる新海監督作品。前作「君の名は。」(2016年)が海外でも大ヒットし、人気は世界に広がった。「天気の子」は140以上の国と地域での配給が決定。全米初上映となった10月のハリウッドプレミアは2回のチケットが前売りで完売し、劇場は新作を待ちわびた熱狂的なファンの興奮に包まれた。

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「天気の子」のプレミア上映会場は新海監督作品の熱狂的なファンで満席となった=米西部カリフォルニア州ハリウッドで10月18日、福永方人撮影

「『君の名は。』のヒットのおかげで、より思い切った映画作りができるようになった」と監督自身が語るように、「天気の子」は現代社会に対する批判的なメッセージが強くにじむ。雨がやまず、豪雨も頻発する東京で主人公の家出少年と、祈ることで天気を晴れにできる力を持つ少女が出会う物語だが、気候変動の危機や若者の貧困も描かれる。そして、終盤で主人公が下す決断には、観客からの反発も覚悟で世相へのいらだちを込めたという。「人間の切実な望みは口に出してしまうと誰かを不快にさせたり傷付けたりしてしまうことがよくあり、今はSNSで一斉にたたかれる息苦しい時代。だからこそ、自分にとって本当に大事なことを誰にも遠慮せずに叫ぶ若者の姿を描いてみたかった」。新海監督はプレミア上映後に壇上でこう解説した。

今年は日本で梅雨が長引き、台風による大きな被害が頻発。世界でもスウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの運動などで気候変動問題が特に注目を集めており、「天気の子」はくしくもタイムリーな作品になった。

アカデミー賞は各部門の候補が来年1月13日に発表され、2月9日の授賞式で各賞が決まる。過去に外国語映画賞の候補にノミネートされたアニメは09年のイスラエル作品「戦場でワルツを」のみで、米国の批評家には「天気の子」のノミネートは難しいとの見方もある。結果はいかに。(ロサンゼルス支局 2019年12月)