一つの声に染まった建国70周年 北京・河津啓介

河津啓介 本社員中国は10月1日、建国70周年を迎えた。軍事パレードを中心とする祝賀行事を影で支えたのは、厳しい言論統制だった。

「くだらない。兵隊が行進するだけだ」

9月末、中国のSNS「微信」にそう書き込んだ四川省の男性(24)が公安当局から「不当な言論を発表した」として7日間の「行政拘留」の処分を受けた。「金の無駄遣い」と投稿した山東省の男性(29)も同様の処分を受けた。監視の目は、SNS上の個人的なやり取りにまで及んでいる。

「今の中国は、共産党や政府と異なる意見を許さない、毛沢東以来の伝統が強まっている」。中国の改革派雑誌「炎黄春秋」の元編集幹部で、中国の近現代史に詳しい丁東氏(68)はそう指摘した。同誌は1991年の創刊後、文化大革命など党の負の歴史に迫る記事を多数掲載してきたが、2016年に事実上の廃刊に追い込まれた。

国内ではハイテク監視技術を駆使した「デジタル独裁」によって体制への異論を封じている。だが、外の世界に目を向けると、共産党が自らの価値観を押し通そうとするほど、あつれきが強まっている。香港の抗議活動や米中摩擦が代表例だろう。

10月5日、米プロバスケットボールNBAのヒューストン・ロケッツ幹部が「自由のために戦おう。香港と共に立ち上がろう」とツイッターに投稿し、中国側が激しく反発した。中国中央テレビが試合中継を見合わせ、企業がNBAとの協賛関係の打ち切りを決めた。

中国側の露骨な圧力に、米議員などから「経済的利益のために表現の自由を犠牲にしてはならない」との反発が強まった。米中で愛される人気スポーツが互いの溝の深さを浮き彫りにした形だ。

板挟みになったNBAコミッショナーは8日、「表現の自由を支持する」と表明。「NBA の強みは、意見や出身、性別、宗教の多様性だ」として、米国を支えてきた普遍的価値を強調した。だが、現在の中国で、こうした主張が受け入れられるわけもなく、火に油を注ぐだけだった。米中摩擦は、経済的な取引だけでは解決できない深みに、ますますはまり込んでいる。(中国総局 2019年11月)

建国70周年を祝う飾り付けが輝く北京の目抜き通り=2019年10月14日、河津啓介撮影