インドネシアで高まる大学生の危機感 ジャカルタ・武内彩

ジャカルタ武内インドネシアの大学生が怒った。「1998年にスハルト政権を倒したレフォルマシ(改革)以来」(地元メディア)の大規模な学生デモが9月下旬、全国各地で巻き起こった。国会が採択を予定していた刑法改正案や駆け込み可決した改正汚職撲滅法に反対する学生らが集結。警察に拘束されるのも覚悟のうえでデモに参加した男子学生は、拙速な国会審議に「民主化の後退だ」と危機感を募らせていた。警察や国軍との衝突により少なくとも学生4人が死亡するという犠牲を出した後、デモは収束したが火種はくすぶる。

国会が大統領らへの侮辱の違法化、未婚の同居や性的関係の禁止を含む刑法改正案の採決を予定していた9月下旬、学生団体による反対デモがジャカルタの国会議事堂前で始まった。学生らが懸念を強めたのは、独立捜査機関として政治家にも対峙してきた汚職撲滅委員会(KPK)の弱体化を招く改正汚職撲滅法が直前に可決されていたからだ。反対世論を無視して可決したように映り、阻止できなかったジョコ大統領への失望感も広がっていた。

デモの激化を受け、国会は改正案の継続審議を決めた。ところがその後も衝突は続き、南東スラウェシ州で男子学生が治安部隊の発砲により死亡。ジョコ氏は改正汚職撲滅法の施行延期の方針を示し、デモは徐々に収束した。ただ改正案は廃案になったわけではなく、施行延期手続きにも時間がかかる。問題は先送りされただけで、学生団体は国会や政府の動向次第でデモを再開する構えも見せる。

一方、学生デモが続いていた9月28日、イスラム団体が主催するデモがジャカルタ中心部で行われた。4月の大統領選でジョコ氏の対抗馬を支持した保守勢力の姿もあり、法改正反対だけでなく「ジョコ大統領に任せられない」という声が上がった。政府高官はすぐさま「便乗した勢力が2期目の就任阻止のために大衆動員している」と応戦。世論は一連のやりとりを静観しているものの、学生運動が波及して盤石に見えたジョコ政権の不安定さを露呈する格好となった。

ジョコ氏の2期目は10月20日にスタートする。さまざまな火種を抱え、順風満帆の船出とはいかなさそうだ。(ジャカルタ支局 2019年11月)