島の領有をめぐる英国の「不正義」 ロンドン・服部正法

外信部デスク 服部正法

チャゴス諸島という名前を聞いたことがあるだろうか。日本人にはあまりなじみのないインド南端約1500キロに浮かぶインド洋の約60の島々が今、英国の「不正義」を世界に告発する場所となっている。

正式には英領インド洋地域に含まれるこの諸島は1814年、南西約2000キロにあるモーリシャスの一部として英植民地となった。英国は1965年になって、チャゴス諸島をモーリシャスから分離して英領に編入。その3年後にモーリシャスの独立を認めた一方で、チャゴス諸島を統治下に置いたままにした。それだけでなく、チャゴス諸島の住民約2000人を強制的にモーリシャスや近隣のセーシェルに移住させた。なぜか。66年にチャゴス諸島最大の島、ディエゴガルシア島を米国に50年間貸与することで合意。米軍が同島に基地を設けたためだ。

チャゴスの名前は聞いたことがなくても、ディエゴガルシアは聞いたことがある人もいるかもしれない。そう、この島はイラク戦争など中東にひとたび戦乱が起きればクローズアップされる米軍展開の要衝であるためだ。

英国は第二次大戦後の国力低下に伴い、1960年代後半に「スエズ運河以東からの撤退」を決め、インド洋の覇権を米国に譲り渡すことにした。このため米国に提供する軍事的新拠点としてディエゴガルシアを選択。チャゴス諸島をモーリシャスから切り離し、住民を退去させた─という構図だ。これに対し、強制移住で辛酸をなめたチャゴス人たちは長年、島々への帰還を求め、モーリシャスも領有権を主張し続けてきた。2012年にセーシェルで会ったセーシェル・チャゴス人委員会のピエール・プロスパーさんは、文化や言葉が大きく異なるモーリシャスに移住させられたチャゴス人がとりわけ社会的な疎外や貧困に苦しんできたと切々と私に訴えた。

事態が大きく動いたのは今年2月、国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)が、英国のチャゴス諸島統治を「不法」と判断し、統治を終了するよう勧告。5月には国連総会でも6カ月以内に統治を終了し撤退するよう求める決議が賛成多数で可決された。勧告も国連の決議も拘束力は持たないが、世界の範となる英国の賢明で穏当な判断を待ちたいと思う。(欧州総局 2019年9月)