福永方人P国境の街の悲哀 ロサンゼルス支局・福永方人

22人が死亡した米南部テキサス州エルパソの銃乱射事件を現地で取材し、隣接するメキシコのシウダフアレスにも歩いて入った。パトリック・クルシウス容疑者(21)は「メキシコ人を狙った」と供述し、実際に8人が命を奪われた。日常的に国境を越えてエルパソを訪れるメキシコ人たちの思いを聞きたかった。

シウダフアレス市民は、リオグランデ川の対岸にあるエルパソについて「外国ではなく共同体という感覚」と口をそろえる。「双子の都市」と呼ばれる両市は、元は同じメキシコ領だったが、19世紀の米墨戦争で勝利した米国がエルパソを含む川の北側を領土に収めたという歴史を持つ。今でも住民は仕事や学校、買い物などのため毎日のように行き来する。米メディアによると、1日の往来者数は歩行者で延べ2万人弱、車両も延べ4万台近くに上る。

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米メキシコ国境のリオグランデ川に架かる橋。米国へ向かう車は連日、長い列を作る=メキシコ北部シウダフアレスで8月6日、福永方人撮影

メキシコへの出入りは拍子抜けするほど簡単だった。米国を出る際はゲートで50セント(約53円)の手数料を取られるだけで、何のチェックもない。橋を渡り終えた所で手荷物のエックス線検査があるが、メキシコへの入国審査はない。一方、帰りはメキシコ側のゲートで30セントを支払い、米国側のゲートで入国審査を受ける。私はパスポートとビザの視認だけで済んだが、メキシコ人の場合はスムーズにはいかない。ビザを細かくチェックされ、質問もされる。

シウダフアレス在住で建設作業員として週6日、エルパソに通うアルトゥーロ・トーレスさん(37)は「朝は2時間以上並ばされることもある。不便だけど、どうしようもない」とため息をついた。トランプ大統領はメキシコなど中南米系の移民を犯罪者呼ばわりし、国境警備を強化する。その影響で入国審査が厳しくなり、メキシコ人の通勤や通学に支障が出ている。だが、エルパソの事件も、翌日に9人が犠牲になった中西部オハイオ州デイトンの銃乱射事件も、容疑者は白人だ。

シウダフアレス市民は「兄弟」の悲劇に心を痛め、白人至上主義への恐れを感じていた。「米国は安全を守りたいなら、移民規制より銃規制を優先すべきだ」。トーレスさんの言葉が重く響いた。(ロサンゼルス支局 2019年9月)