日本文化への関心も領土問題につながらず モスクワ・大前仁

モスクワ大前モスクワでは7月下旬、恒例となった日本文化フェスティバルが催され、12万3000人の来客でにぎわった。太鼓の響きに合わせて盆踊りが行われ、ロシアの若者がアニメのキャラクターにふんしていた。日本文化の何がロシア人を引きつけているのだろうか? 人気アニメ「進撃の巨人」の登場人物になりきっていたのは、建設会社に勤務するアナスターシャさん(22)だ。

アニメやコスプレにとどまらず、日本文化全体に関心があると話す。近く日本語の勉強を始めて日本を訪れ、「日本の魂に触れたい」と目を輝かす。

このように日本文化がロシアの若者に浸透しながら、政治面に目を移すと、日本が望むように関係は改善していない。プーチン大統領は今年6月末に訪日したが、北方領土問題はほとんど進展しなかった。更にメドベージェフ首相は8月初旬に択捉島を訪れると、「ここは我々の土地だ」と誇らしげに口にしていた。

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人気漫画「進撃の巨人」のキャラクターにふんしたアナスターシャさん(右)=モスクワで2019年7月21日、大前仁撮影

日露の政治関係について、前出のアナスターシャさんに尋ねると「改善してもらいたい」と即答した。しかし平和条約の話になると「それは政治的な文書に過ぎない」と言い切る。ロシアは一部でも北方領土の引き渡しに応じるのだろうか? 「このテーマはもう少し穏やかに話し合えばいいのではないか」と話す。ただし彼女が描く未来図とは、日露が北方領土で商業取引を始めたり、一般の日本人が現地を訪たりするという程度のものだった。

2012年に復帰した安倍晋三首相はプーチン氏との個人的な関係を深めれば、北方領土問題を進展させられると期待をかけたが、このアプローチが機能しなかったのは明らかだ。日本国内では多くのロシア人が日本文化へ関心を抱けば、北方領土問題への理解が深まるのではないかとも期待がかけられたが、これも幻想だったことが分かる。

なにも首相がプーチン氏との関係の深化を諦めるべきだとは思わない。ロシアの若者に日本文化をアピールするイベントを取りやめる必要もない。今後も多方面にわたりロシアへのアプローチを続けていくべきだ。ただし短期間で領土問題を解決できるようなアプローチも方法もないことは、しっかりと認識しなければならない。日本が対露政策を練り直していくとしたら、この一歩から始めなければならないはずだ。(モスクワ支局 2019年9月)