ビジネスチャンス バンコク・西脇真一
「タイは若い人の国だ。わたしのような年寄りを街で見かけない。エスカレーターのスピードも日本より速く、怖いくらいだ」。高校時代の友人が、70代後半になる母親を連れてバンコクへ観光に来た。その母親の感想である。
確かに中心部には奇抜なデザインの高層ビルが立ち並び、街の雰囲気も行き交う人も何となく若々しい。ところがどっこい、タイはアジア主要新興国の中で最も早いペースで高齢化が進んでいるという。そして、1960年代後半に6だった合計特殊出生率は、1・5にまで落ちている。この結果、国連は今世紀半ばにタイの人口の30~40%が60歳以上の人になると予測。農村から都会への人口流出や核家族世帯の増加も目立ち、介護をはじめとするその対策は急務となっている。
一方、高齢化では先を行き、経験も豊富な日本の企業にとって、タイはビジネスを拡大させるチャレンジの場にもなる。例えばMRIや内視鏡、手術用手袋などを含む「医療機器」。日本でも需要は拡大し、国としては米国に次ぐ世界第2の市場だが、海外市場が圧倒的に大きい。「タイでは富裕層向けの高級病院と庶民向けの病院に2極化している。今後は中間層向けの病院が増えてくるはずだ」。中小企業基盤整備機構の横尾浩一郎さんは、そう有望視する。
その中小機構と日本貿易振興機構バンコク事務所が開いた進出支援セミナーをのぞくと、タイなどでの展開を考える医療機器・関連分野の中小企業20社が、日本から来ていた。参加者はタイ側講師に「病院での購買決定権は誰にあるのか」などと、熱心に尋ねていた。興味をひいたのは、既に進出した企業の担当者の体験談。販売に向け、タイ当局の認可取得までに1年半かかった。「窓口のスタッフは毎回変わり、言うことも人によって変わる」。さもありなん、だが「多くの人の目で審査をしている。誰が見ても分かる書類を出す必要がある」と考え、乗り切った。発想の転換だ。また、タイで長くビジネスを手がける男性は「世界と競合している。昔ながらの上から目線では、とても通用しない」とも話す。
全企業の99・7%、雇用の約70%を占め、日本を支える中小企業。縮小する日本から、活路を東南アジアに求める動きに注目したい。(アジア総局 2019年9月)
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