本当の「国家非常事態」 ロサンゼルス・福永方人
米国に赴任して2カ月あまり。銃社会の恐ろしさを痛感している。とにかく銃犯罪が多い。主な乱射事件だけでも、▽西部カリフォルニア州サンディエゴ近郊のユダヤ教会堂で1人死亡、3人けが(4月27日)▽西部コロラド州デンバー郊外の学校で1人死亡、8人けが(5月7日)▽南部バージニア州バージニアビーチの市庁舎で13人死亡、5人けが(同31日)――などがあった。
しかし、これらはほんの一部にすぎない。非営利団体「ガン・バイオレンス・アーカイブ」の調査によると、今年、銃撃事件は全米で既に2万7000件以上発生し、7000人以上lが死亡。乱射に限っても200件を超え、1日当たり1件は起きている計算になる。もはや銃犯罪は日常茶飯事で、多数の死傷者が出たり、テロの疑いがあったりしない限り、乱射であってもほとんど報道されない。警察官が容疑者に発砲しただけで騒ぎになる日本とは大違いである。
学校での銃撃も相次いでいる。米メディアによると、今年は既に10件程度あり4人が死亡した。2016年における15~29歳の若者の死因のうち、銃によるもの(自殺や事故を含む)は1万1947人で、自動車事故の1万881人を上回ったという米疾病対策センターのデータもある。

ルス近郊で6月13日、福永方人撮影
こうした現状にもかかわらず、抜本的な銃規制には至っていない。昨年、2月に南部フロリダ州パー
クランドの高校で17人が死亡した乱射事件をきっかけに高校生らが規制強化要求運動を起こし、州レベルでは危険人物から銃を取り上げる「レッドフラッグ(危険信号)」法などが成立したが、全米で効力
を持つ連邦法については目立った進展はない。建国に銃が重要な役割を果たした歴史から、憲法で銃所持の権利が保障されている。また、銃規制に反対し、豊富な資金と高い集票力を誇る全米ライフル協会(NRA)のロビー活動も背景にある。
NRAの支援を受けるトランプ大統領も規制には消極的である。一方で、今年2月に不法移民対策としてメキシコ国境の壁を建設するため国家非常事態宣言を発令した。1日当たり約40人の命が奪われる
銃犯罪のまん延の方が、よほど「国家非常事態」だと思うのだが。(ロサンゼルス支局、2019年7月)
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