ノルウェーに見習う対露姿勢 モスクワ・大前 仁

モスクワ大前ロシア周辺部を見回すと、ポーランドやバルト3国など、ロシアに対し強硬姿勢を取る国が多い。その中で意外に思えるのは、北欧のノルウェーではロシアへの敵対感情が強くないことである。帝政ロシアや後継国のソ連が多くの隣接地帯を自国領に組み込んだり、衛星国にしたりしてきた中で、ノルウェーとは戦火を交えなかった。それどころか第二次大戦後半のソ連はナチスドイツに占領されていたノルウェーを解放し、戦後に居座ることもなかった。

ただし大戦直後に始まった冷戦時代は、ソ連が東側陣営の盟主となる一方で、ノルウェーは北大西洋条約機構(NATO)に加わり、敵対する陣営に分かれた。それでもノルウェーはNATOの他の加盟国を自国領内に駐留させたりせず、軍事同盟に入りながらも、敵対する隣接国へ配慮も忘れず、バランスを維持してきたといえる。

20190604ノルウェー国境
ロシアとの国境を越えて、ノルウェーに入国しようとする車両=大前仁撮影 

このようなノルウェー外交の成果の一つは2010年、ロシアとの間でバレンツ海における大陸棚の境界線を確定したことだ。これは40年続いた係争を終えただけではなく、人口550万人の小国ノルウェーがかつての超大国と対等に向き合い、平和裏に解決するという意義もあった。両国が歩み寄った背景では、バレンツ海でのガス田開発計画で協力を試みる思惑も絡んでいた。しかしロシアが14年、ウクライナ南部のクリミアを強制編入したことから、ノルウェーとの「蜜月」も終わりを告げた。ノルウェーは欧州連合(EU)に加盟せず、中立的な外交を取ってきた。しかしEUが対露制裁を科していく中、自国だけが融和的な政策を取る余地はなく、対露関係は大きく冷え込んだ。

このようなノルウェーの姿は、近年の安倍政権が北方領土問題の解決を目指し、対露関係の改善を試
みてきた姿と重なる部分が多い。米露関係の悪化が続く中、日本が独自にロシアとの関係を打開できる
余地は大きくない。それでもノルウェーはロシアとの対話のチャンネルを開き、関係維持を試みている。
日本も短期的には北方領土問題を進展できる見通しは立たないが、今後もロシアへの関与策を続けていくべきなのかもしれない。この点ではノルウェーの姿勢が参考になるように思えてくる。(モスクワ支局、2019年7月)