異例づくめの捜査 バンコク・西脇真一

バンコク西脇

5月24日朝、バンコクの入管施設から出てきた15人の男たちは、皆一様に押し黙り、3月にタイ警察に逮捕された直後のような笑顔は、そこになかった。日本へ向かう日航機内で詐欺容疑で逮捕され、久しぶりの日本の味だというのに機内食に手を付けない者もいたという。

中部パタヤで振り込め詐欺の拠点が摘発された事件は、日本警察にとって異例ずくめの捜査だった。海外で日本人が捕まる場合、既に日本で指名手配されているケースも多い。だが今回は、不法就労容疑で逮捕され、その後、日本を狙った振り込め詐欺容疑が浮上した。15人は不法就労をすぐ認め、罰金も納付された。それだけなら2~3週間で日本へ帰れるケースだという。もしその時点で日本の逮捕状が間に合わなければ、15人はそのまま行方をくらますに違いない。「限られた時間の中で、綱渡りの連続だった」という捜査が始まった。

実はタイでも振り込め詐欺は問題化している。インターネットを使う大量の電話機の存在を知ったタイ警察もその疑いを抱いていた。だが、両国の法制度は異なり、必要な証拠のレベルも違う。日本なら入念に内偵し、ベストなタイミングで踏み込む。一方、今回は大家側から通報を受けて4日後の摘発だった。全員の逮捕状を確実に取ることのできる日時は? その被害認定は? パソコンなど証拠品を外交
ルートで日本に運ぼうとすれば、半年以上かかる。

すべてが解決し15人を移送できたのは、逮捕から約2カ月たっていた。その間、タイ警察は15人が他
に罪を犯していないかを慎重に調べるとの理由で拘束していたようだ。証拠品は、一度15人に返還して
一緒に機内へ運び、逮捕後に押収するという方法が採られた。移送のため東京から派遣された捜査員らは36人。これも異例の多さだった。

15人はさまざまな理由で多額の借金を背負っていたらしい。肉体労働で返済させるためにタコ部屋送
りにする、という話は昔からあるが、今回はパタヤで他人の金をだまし取る作業をさせられていたとみられる。捜査関係者が振り返る。「ネットの普及で犯罪が非対面型化、ビジネス化、グローバル化している現状が、ここには如実に表れている」。6月14日、15人は別の詐欺容疑で再逮捕された。(アジア総局、2019年7月)