大爆発の現場で 上海・工藤哲
建物の窓枠が吹き飛ばされ、ガラスの破片が散乱し、住民が不安そうな顔で片づけ作業に追われていた。3月21日に江蘇省北部の塩城市の化学工場で起きた大爆発。70人以上が死亡した。初日は死者や行方不明者の詳細は分からなかったが、翌22日午前に死者44人と伝えられた。
塩城市の空港からタクシーに乗り、現場の工場を目指して北に3時間余り。高速道路は通行止めで、大きな道では検問が始まっていた。農道をたどり工場を目指すと、5キロ地点で異臭を感じる。さらに近づくと、曲がった窓枠やシャッターが至る所に。工場から約1キロに来たところで道には警官が立ちふさがっていた。住民の話を聞こうといったん引き返して7キロほど離れて車を止めたが、そこも数分で2人の警官が近づいて来た。
この辺りに住む60代男性は「昼寝中に時に大爆発が起きた。ガラスの破片が当たって何人も死んだ。近くの幼稚園児も大けがをし、亡くなった。連絡がつかない人がまだたくさんいる」と訴えた。この時点で約50人の死亡が伝えられていたが「少なすぎる」と別の住民は憤った。窓枠の壊れ方を見れば、被害の大きさは容易に想像できた。

爆発はベンゼンが引火したとみられる。爆発地点の風下500メートル地点の窒素酸化物が環境基準の300倍以上になっていた。
4月4日付の中国紙「南方週末」によれば、江蘇省南部では環境汚染が深刻になり、規制が強化されて工場は北部に相次ぎ移転。地元政府が好条件で誘致し、経済は好転したが、近くで野菜が採れなくなり、がん患者が増えた。最近約2年半で一帯では火災や爆発事故が4度起きていた。事故後、工場周辺で「ひどいでしょう」と問いかけた住民に、地元幹部は「被害状況は普通だ」と応じたという。
爆発でマグニチュード2・2の地震が起きた。それほどの大きさなのにメディアは救助活動や対応を伝えるばかりで肝心の原因に関する情報は乏しい。
2度目の中国勤務だが、こうした現場での監視の圧力は以前より強まったと感じる。当局者は報じて欲しい内容には惜しみなく便宜を図るが、都合の悪い場所になると途端に記者を近づけない。事故現場取材の難しさは増すばかりだ。(上海支局 2019年5月)
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