北アイルランドの見えない壁 ロンドン・矢野純一

ロンドン矢野

英国の欧州連合(EU)離脱に揺れる英領北アイルランドは、今もかつての紛争の影を引きずっている。英国からの独立とアイルランドへの帰属を主張するカトリック系住民と、帰属継続を求めるプロテスタント系住民が対立。和平合意した1998年まで約30年間続いた紛争では約3000人が犠牲となった。平和が訪れたように見えるが、今も双方の住民の間には溝が残る。居住地域を隔てる物理的な壁が残り、日々の暮らしにも見えない壁がある。

「大学に入学するまでカトリック教徒と、まともに話したことはなかった」。中心都市ベルファスト近郊で慈善団体を運営するプロテスタントのシオフラさん(28)は話す。

平和の壁IMG_5618
カトリック系とプロテスタント系住民の居住地域を隔てるベルファスト西部に
ある「平和の壁」。観光名所にもなっているが、「必要」とする住民も多い=英
領北アイルランド・ベルファストで=矢野撮影

町には双方の住民が暮らす地域の境界に、高さ約6メートル、長さ約800メートルの壁が残る。観光名所にもなっているが、撤去できないままだ。北アイルランドには大小約100カ所の壁があるという。

壁がなくても居住区域は道路や線路で隔てられている。学校もカトリック系とプロテスタント系に別れている。双方が一緒に学ぶ学校に通っている児童生徒は7%しかいない。

シオフラさんは徒歩で15分足らずのプロテスタント系学校に通学バスで通っていた。カトリック教徒が住む地域を抜けなければならなかったからだ。バスに向けて、カトリック教徒がブロックを投げ、友人が割れた窓ガラスでけがをしたこともあった。

楽しむスポーツも異なる。カトリック教徒はプロテスタント系が親しむサッカーやラクビーではなく、ホッケーの元祖とされるハーリングなど固有のスポーツを楽しむ。そのため、双方の学校が共通のスポーツを通じて交流することも難しい。

離脱でEU加盟国アイルランドと、地続きの北アイルランドの間に紛争時のように国境管理が復活する可能性がある。検問所ができれば、カトリック系民兵組織が英国統治の象徴として攻撃の標的にする恐れもある。

シオフラさんは双方の子供たちを対象にした塾を運営している。そこでは分け隔てなく子供たちが机を並べて勉強している。「少しでも、壁がなくなれば」。若い世代が見えない垣根に挑んでいる。(欧州総局 2019年5月)

シオフラさんIMG_5690
カトリック、プロテスタント両派の子供たちを対象にした塾を運営するシオフ
ラさん(右)。左は共同代表のジェインさん=英領北アイルランド・ベルファス
ト近郊で=矢野撮影