日露交渉担当者の苦悩 モスクワ・大前仁

モスクワ大前

2004年から3年間、日本に駐在したアレクサンドル・ロシュコフ元ロシア大使。1990年代後半から2000年台前半まで対日交渉も担当していた。プーチン露大統領と当時の森喜朗首相が01年3月、東シベリアのイルクーツクで会談した際、ロシア側の交渉責任者を担った人だ。

当時のロシアも平和条約で容易に譲歩しなかったが、ロシュコフ氏は所々で柔軟姿勢で交渉に当たったといわれる。当時を知る日本側の関係者からも「ロシュコフ氏は自分の責任で交渉を進めた勇気ある人物だった」と評されている。

そして20年弱を経て、日露両国は本格的な平和条約交渉を再開させたが、日本側が当初思い描いていたようなペースでは進められていない。ロシアが取り上げる歴史認識や在日米軍にかかわる問題がネックとなり、すぐに歩み寄れる状況ではないからだ。

20181221ロシュコフ2
インタビューに応じるロシュコフ元駐日ロシア大使=モスクワで2018年12月21日、大前仁撮影

「安倍晋三首相が1月の訪問前に、ロシアの世論を刺激したことから、大きな進展に結びつかなかった」「ロシア世論が島の返還に反対しており、かなり難しいと思う」。今のロシュコフ氏も悲観的な見方を示す。同時に日露双方で特別代表に指名された日本の森健良外務審議官とモルグロフ外務次官による交渉が最も重要になっていくと指摘する。

両者による協議は3月末まで3回持たれた。そのうちの1回は外務省関係者しか参加せず、異例の少人数で実施した。その結果「議論の進め方とか技術的な点でクリアになったところが幾つかある」(森氏)ともいわれる。それでもモルグロフ氏自身が「交渉は始まったばかり。立場の違いが大きい点を認めなければならない」とクギを差す。

ここ数年の平和条約交渉では、トップ会談ばかりが注視されてきた。一方でロシュコフ氏が指摘するように、今後大きな比重を占めるのは特別代表の話し合いとなっていく。「ロシア国内はこの問題にかたくなになっており、ロシュコフ氏の時代と違い、実務担当者の交渉だけでは進展させられなくなってきた」(日本外交筋)ともいわれる。それでもロシュコフ氏は「実務担当者が知恵を出していかなければ……」と後輩を激励する。そのエールは届くのだろうか。(モスクワ支局 2019年5月)