アカデミー賞は「地方選挙」 ロサンゼルス・長野宏美
「ようやく終わる。ああ長かったな」。今年のアカデミー賞で、「万引き家族」が外国語映画賞にノミネートされた是枝裕和監督(56)は、授賞式を数時間後に控えた2月24日、毎日新聞など日本メディアの合同インタビューで心境を聞かれ、苦笑した。
アカデミー賞は授賞式までのキャンペーンが長い。特に10月以降は賞レースに絡みそうな映画が多く公開され、新聞や雑誌は有力作の監督や出演俳優らのインタビュー記事であふれる。年末には前哨戦となる別の映画賞のノミネートや発表も始まり、「本番」に向けてどんどん盛り上がる。
是枝監督は昨年10月に外国語映画賞の日本代表作に選ばれてから、繰り返しロサンゼルスを訪れ、上映会やレセプション、取材などに追われた。年末までパリで、カトリーヌ・ドヌーブさんらが出演する新作映画の撮影をし、その後は編集作業で多忙だった。アカデミー関連では「彼らが望む3分の1も来られなかった」というが、「外国語映画賞でこんなに大変だったら、(作品賞など)本賞に入った作り手は何もできない」と話した。

長野宏美撮影
米国では外国語映画はマイナーだが、アカデミー賞候補になると注目度が急上昇する。だから、外国語映画の配給会社はノミネートされそうな作品を探す。「万引き家族」は昨年5月にカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞。その後は米国の配給会社がアカデミー賞までどういうタイムスケジュールで、いくらお金をかけて、どういうスタッフで進めるかを考えたという。是枝監督は「米国の配給会社は『今年はどの作品でアカデミーを目指すか』という地方選挙を戦っていく感じです」と例えた。
松崎薫プロデューサーによると、戦略として、現地でも高い評価を受けた主演の安藤サクラさんら出演俳優のインタビュー機会を設け、露出を増やすなどの助言を受けたという。ただ、俳優陣は日本で主演ドラマの撮影などに追われ、対応が難しかった。
受賞はしなかったが、米国で300万ドル(約3億円)以上の興行収入を上げた。映画館で米国人に感想を聞くと、「社会から見えない存在に光を当て、登場人物の描き方がすばらしい」など高評価だった。新たなファンを増やしたことは間違いない。(ロサンゼルス支局 2019年4月)
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