「仏教ランド」と日本人 バンコク・西脇真一

バンコク西脇

ミャンマー最大の都市ヤンゴン郊外にあるアウンザブダイヤ寺院。門前に店が並び、境内はお参りの人であふれている。寺は「ジャパン・パゴダ」とも呼ばれている。軍政末期、海外へ流出の危機にあった仏像を日本人が買い集めて保護。寺に寄贈された国宝級を含む301体が安置されているからだ。

2005年、東京で会社を経営する日本ミャンマー友好交流協会代表理事、熊野活行さん(69)の乗ったタクシーが、古都パガンで道に迷った。夕暮れ時、歩いて入った洞窟のような場所で、鬼のような形相をしたモノににらまれ、逃げ出した。帰国後も夢の中でその鬼にうなされた。それは、崩れかけた寺院の中にある黒ずんだ仏像だった。「直せということか」。熊野さんは、私財で寺院修復に乗り出した。

すると、今度は貴重な仏像がタイや中国へ売られているという話を耳にした。07年9月、燃料の大幅値上げを機にデモが発生。僧侶を中心とする10万人規模の反政府運動が起きた。だが軍政に武力弾圧され、托鉢まで禁じられた僧侶が、食い詰めて秘仏を売却していた。「話が来るのも何かの縁。自分にしかできない」。見つかれば重罪に問われる可能性があったが約2年かけて保護。トラックに満載した野菜の下に隠して検問所を抜けることもあった。

総選挙を経て11年に新政府が発足し、民政移管が完了。12年に「会った瞬間互いに前世は兄弟だと確信し合った」パナウンタ大僧正に寄贈を申し出た。仮安置を経て昨年末、仏像を収めた5階建ての大聖堂が完成し、大法要が営まれた。

寺を案内してくれたミャンマーの企業家によると、大僧正は危険などを予知する能力にたけ、寺にはたくさんの寄進が集まるという。「ミャンマーでは何かをきっかけに状況が一変することが多くあった。不安は多く、ここで心を落ち着けどうすべきか考える。そしてうまくいったあかつきに寄進するのです」。企業家が話してくれた。寺では参拝客に無料で食事が供され、大聖堂を含め「家族で一日中楽しめる仏教ランド」作りが寄進を元手に進められている。熊野さんは「みな『ありがとう』と言ってくれ、気持ちが豊かになった。日本との絆を深める場所にもなってくれれば」と願っている。(アジア総局 2019年4月)