乾隆帝への逆風 北京・浦松丈二

北京浦松中国の映画・ドラマには「宮闘劇(宮廷闘争劇)」と呼ばれるジャンルがある。〈皇帝の後宮で繰り広げられる女たちの闘い〉と説明されれば、日本人は江戸時代の「大奥」を連想するだろう。だが、宮闘劇の演出の激しさはケタ違いである。

2018年に中国で最もヒットした連続ドラマは清朝第6代皇帝、乾隆帝(1711~99年)の後宮を描いた「延禧攻略(えんきこうりゃく)」だった。中国の動画サイトで7月から70回シリーズの配信が始まり、世界で大ヒット。中国のネット上だけでも181億回以上再生された。日本の衛星放送でも2月から「瓔珞〈エイラク〉~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」として放送が始まっている。

主人公、魏瓔珞(ぎえいらく)は乾隆帝に寵愛され、女官から3番目の皇后になった実在の人物がモデルだ。ドラマでは何度も失脚し、謀殺されそうになりながら切り抜けていく勇敢で聡明な女性として描かれている。中国では同時期に乾隆帝の2番目の皇后を描いた87回シリーズの連続ドラマ「如懿伝(じょいでん)」も人気を集め、ネット上で約146億回以上再生されている。

2018年の中国ドラマは清朝の最盛期を築いたとされる乾隆帝の天下だった。しかし、年が改まると状況は一変する。中国紙、北京日報が1月25日に「宮廷文化のマイナスの影響を軽く見るべきではない」との論評を出して「延禧攻略」と「如懿伝」の2作品を激しく批判した。2作品を再放送していたテレビ各局が途中で放送を打ち切ったことは共産党宣伝部の意向をうかがわせた。

論評は難解である。最たる一文は「皇帝の重臣たちを美化することで、新中国の英雄・模範の輝きを失わせている」だろう。文面通り受け取れば、豪傑たちが大活躍する「三国志」や「水滸伝」さえ批判対象になってしまう。

2作品の再放送が説明なく中止された理由は臆測を招いている。「晩年に老害をまき散らす乾隆帝が出てくるから(偉い人の不興を買った)」という奇説まである。真偽はさておき、大ヒットした翌年に突如、再放送禁止になる現代の宮闘劇だ。泉下の乾隆帝も目を丸くしているに違いない。(中国総局 2019年3月)