動き出した平和条約交渉 モスクワ・大前仁

モスクワ大前厳冬のモスクワで臨んだ安倍晋三首相との会談を終えると、プーチン露大統領は日本との平和条約交渉について「地道な作業がある」と硬い態度を崩さなかった。一時期の日本国内ではプーチン氏が6月末に来日する機会を捉え、平和条約署名に向けた「大筋合意」を期待する声もあったが、現時点では「黄信号」がともっている模様だ。

それでも首脳会談後のロシア国内でひそかな関心を呼んだのは、ペスコフ大統領報道官の発言だった。会談から5日後に放映されたテレビ番組に出演。日本との関係について「何を与えてとか、何を受け取るとかではなく、最も大切なのは平和条約を結ぶことだ」と説いた。ここで解釈が難しいのは、次のどちらに力点を置いたのかだ。平和条約署名と北方領土返還を「切り離す」点に力点を置いたのか。もしくは、平和条約を結ぶことの意義を説いたのか。

ペスコフ氏は番組内で、日本が条約署名と領土返還を同時に求めていることに対し、ロシアが「まずは条約署名」の姿勢を崩しておらず、立場の差が残されていることに触れた。そのため日本国内では、今回の発言が「切り離し」を意図したものだとの解釈に占められたようだ。その一方で、ペスコフ氏は「我々は第二次大戦を終わらせて、極東の非常に重要なパートナーと平和条約を結ばなければならない」とも繰り返していた。

もう一つ興味深かったのは、同じ番組内で報じられた首脳会談後の映像だった。会場を後にする首相一行は寒気の中、モスクワの夜景を背景にして写真撮影に講じていた。その表情を見る限りでは、失望感に占められていたとの印象は受けなかった。

「会談内容は全く分からない」と前置きしながらも、「官邸はそれなりの手応えを感じていたようだ」。このような関係者の声も漏れてくる。またペスコフ氏のテレビ番組を取り上げ「ロシア政府が国民に向けて、日本との平和条約の意義を説き始めた」との分析も聞こえてくる。

70年以上も結べずにいた平和条約交渉について、静かな一歩を踏み出したことだけは確かなようだ。ただし行き着く先も、いつに到着するのかも、まだまだ未確定な要素に占められているのだが。(モスクワ支局 2019年3月)

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日露首脳会談を前にして、モスクワ市内では北方領土返還に反対する集会が開かれた。男性が掲げたプラカードには「クリル(北方領土)はロシアのものだ」と書かれていた=モスクワで2019年1月20日、大前仁撮影