「愛国心」の行方 北京・赤間清広

北京赤間

2018年、中国で大ヒットした映画がある。タイトルは「すごいぞ、我が国」。経済が急成長し、いまや米国を抜き世界トップに立つことも夢ではなくなった中国の「発展の歴史」をたたえる内容で、公開直後から多くの市民が列を作った。

政府だけでなく、市民にも広がる「大国」としての自信。反面、最近はその弊害ともいえる現象があちこちで現れている。

イタリアの高級ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」(D&G)は11月、上海で予定していたファッションショー用に準備した広告動画が「中国を馬鹿にした内容だ」と大炎上。ブランド創立者が写真共有アプリで中国を侮辱する発言を繰り返していたことも暴露され、中国全土で不買運動が広がった。

ネットを中心に燃え広がった世論を恐れ、ファッションショーに登場予定だった中国人俳優は相次ぎ出演をキャンセル。中国のインターネット通販サイトもD&G商品の取り扱いを即座に中止した。

騒動から1カ月近く経過してもD&Gの締め出しは解除されていない。「対応が甘いと判断されれば、ネットの厳しい世論は我々に向く」。中国ネット通販関係者はこう解説する。

D&Gは広告動画を削除し、同社の公式アカウントで創立者2人が中国語で「申し訳ありませんでした」と謝罪する姿まで公開したものの、中国の世論は一向に収まりそうにない。同社は世界有数の高級ブランド品市場を一瞬で失った格好だ。

膨れあがる愛国心。それを傷つけた者は激しい攻撃にさらされる。当局も愛国教育を強化し市民のナショナリズムをあおり続けてきた。

12月1日の米中首脳会談で、中国政府は米国との貿易戦争回避に舵を切った。水面下では米国製品の輸入拡大など踏み込んだ譲歩案を示している模様だ。就任前から激しい中国批判を繰り返してきたトランプ米大統領はいま、中国の愛国心を最も刺激する相手と言っていい。その米国の圧力に屈した印象を与えれば、激しい愛国世論は今度は当局批判に向かう恐れもある。大国としての威厳を保ちつつ、どう休戦に持ちこむか。自ら育てた市民の愛国心を前に、中国政府は自縄自縛に陥っているように見える。(中国総局 2019年1月)