ロシア軍演習の教訓は モスクワ・大前仁

モスクワ大前プーチン露大統領が今秋に北方領土問題について相次いで発言したことを受け、日本国内の関心は平和条約問題に向けられている。その中で興味深い動きを見せたのが、ロシア軍の北方領土における活動といえよう。

ロシア軍は9月中旬、シベリアから極東における広範な地域で軍事演習を実施した。公式発表で約30万人が動員された1週間の期間中、北方領土での演習は実施されなかった。この点について、制服組トップのゲラシモフ参謀総長は事前説明の際に「大規模な演習となるから、土地が広くないところ(北方領土)では行わない」と発言していた。更に今回の演習には中国軍が初参加したこともあり、ロシアが日本を刺激することを避ける狙いから、北方領土での演習を取りやめたのではないだろうか。このような分析も出ていた。

これに加えて日本側を驚かせたのは、ショイグ国防相が10月上旬に発言した内容だ。自衛隊トップの河野克俊・統合幕僚長をモスクワで迎えると、「日本の要望を受けて(北方領土を含む)クリル諸島で演習しなかった」と述べた。これには河野氏も「北方領土を訓練地域から外す配慮を示したことを高く評価している」と応じてみせた。ところが舌の根が乾かぬうちに、ロシア軍は北方領土周辺で演習を繰り返した。日本政府が抗議すると、ロシア外務省が「建設的な環境を作れないだけではなく、障害となりかねない」という声明を出す具合だ。

日露の軍事情勢に詳しい専門家は「あらかじめ予想できた展開だった」と振り返る。9月の演習では、大規模な軍を移動させるという作戦の性質上、北方領土が対象地域から外されたが、その分が10月に繰り延べされたのではないだろうかというのだ。それではショイグ氏の発言は何だったのか? 「一種のブラックジョークに過ぎなかったのかも」との声さえ聞こえてくる。

米露関係が悪化している中、ロシア軍が米国の同盟国である日本に向ける目はかくも厳しい。プーチン氏の発言に一喜一憂し、近く平和条約が結ばれるかもしれないと期待するほど、ロシアの対日姿勢は甘くない。演習を巡る今秋の「教訓」はそのように語っている気がしてならない。 (モスクワ支局 2018年12月)

20180915軍事演習・艦船
ロシア軍の大規模演習はロシア極東の沿海地方沿岸でも実施された=2018年9月、オクサナ・ラズモフスカヤ(毎日新聞モスクワ支局助手)撮影