ダライ・ラマの中国配慮の背景 ニューデリー・松井聡

 

デリー松井

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(83)は11月5日、毎日新聞を含む一部の日本メディアと会見した。目下の関心事だった後継者選出方法については、▽高僧会議による指名▽自身による生前指名▽輪廻転生――の3つが選択肢だとする従来の主張を繰り返し、特段の目新しさはなかった。ただ、この会見で私が注目したのは、ダライ・ラマの発言に中国への配慮がにじみ出ていたことだった。背景には、チベットの後ろ盾のインドと、中国の関係改善があるのではないかと見ている。

ダライ・ラマは過去に中国を厳しく批判してきたが、今回の会見では、既に政治的な実権は自身からロブサン・センゲ首相に移っていると強調したうえで、「中国の指導部の数人と近い関係を持っている」
、「中国の指導部は過去の抑圧的な政策が間違っていたと気づき、彼らは現実的なアプローチを考えている」、「チベットの若者の中には独立に言及する者もいるが、感情的過ぎる」などと述べて、チベットと中国が良好な関係を築けることを強調した。

インドでは今年に入り、チベット亡命政府主催による来年の亡命政府樹立60年を祝うキャンペーン
「サンキュー・インディア」が行われている。一方、中国との関係改善を目指すインドはイベント開催の
場所を、首都ニューデリーから亡命政府がある北部ダラムサラへの変更を求めたり、政府高官のイベン
トの出席を自粛するよう求めるなどの措置を取ったりしてきた。インド政府が、チベット問題が中国と
の関係改善の妨げになるのを警戒していることは明らかだ。中印が関係改善する中、ダライ・ラマは中
国批判を強めることでインドの機嫌を損ねるのは得策ではないと判断した可能性がある。

だが、チベット亡命政府がダライ・ラマの後継者について、中国が輪廻転生に介入することを警戒し
て別の選出方法を選択すれば、中国の反発は必至だ。仮に中印の関係改善がさらに進んだ場合、インドが中国に配慮する姿勢を見せる可能性もある。チベットは今後、中印の関係改善の状況を見守りながら、後継者選出という極めて難しい課題に取り組むことになりそうだ。 (ニューデリー支局 2018年12月)