北アイルランドの憂鬱 ロンドン・矢野純一

 

ロンドン矢野英国の欧州連合(EU)からの離脱を巡り、英領北アイルランドの国境管理の問題が焦点となっている。英国・EUともに「厳しい国境管理」を設けないとしているが、「厳しい」のとらえ方が今後の火種になる可能性がある。それ以上に、過去の北アイルランド紛争の根本的な対立点の北アイルランドの帰属問題が表面化する恐れもある。

「離脱を決めた国民投票(2016年)が、北アイルランド帰属問題という爆弾の導火線に再び火を付けた」。北アイルランド出身で、英中部バーミンガムで暮らすイアンさん(51)はこう話す。

北アイルランドでは1960年代以降、約30年にわたって英国の統治継続を求めるプロテスタント系と、英国から独立してアイルランドへの帰属を求めるカトリック系の住民が衝突。約3000人以上が犠牲となった。98年に双方が和平合意し、プロテスタント系とカトリック系の政党が協力して自治政府の運営を始めた。

カトリック教徒のイアンさんは、小学校に入学する前に、家族と共に英本土に移り住んだ。記憶は薄れているが、銃を持った兵士の姿や、母から外で遊ぶのを禁じられたことを覚えている。

国民投票では、北アイルランド住民の56%が残留を支持した。世論が半分に割れているように見えるが、アイルランドへの帰属を求める住民の9割は残留に投票。将来の帰属を念頭に、アイルランドが加盟するEUの影響力が今後も続くことを望んだ。

一方、英国の統治継続を求める住民の8割以上が離脱に投票。EUから離脱して英国との一体性をさらに強めることを求めた。

98年の双方の和平合意では、北アイルランド帰属を巡る国民投票を将来に行うこととして、問題を先送りした。イアンさんは「政治に関心が無い人たちも、皆が忘れかけていたこの問題を意識するようになった」という。

和平合意でノーベル平和賞を受賞した英国統治継続派のトリンブル元北アイルランド自治政府首相は記者会見で「和平が崩壊して暴力が復活することはないが、なんらかの政治的な影響をもたらすかもしれない」と話し、不安をにじませた。(欧州総局 2018年11月)