日韓共同宣言を巡る文政権の葛藤 ソウル・堀山明子
新たな日韓関係を目指した小渕恵三首相と金大中大統領による「日韓共同宣言」から10月8日で20年。9~10月には日韓双方で記念行事が相次いだ。しかし、政府レベルでは、文在寅大統領の訪日も新共同宣言も行われず、低調に終わった。過去を懐かしむより、実践を求める提言が学会などから出たが、それに抵抗する動きが文政権から表面化した。
一つは、慰安婦問題の解決のための日韓合意(2015年)に基づき朴槿恵前政権が発足させた財団について、9月25日に米ニューヨークで開かれた日韓首脳会談で文大統領が「解散を通告」したと韓国で一斉に報じられたこと。正確には、文氏は解散を求める世論が根強い現状を説明したもので、解散の判断は下していない。しかし、会談をブリーフした高官が日本人記者の退室を求めたうえで、「解散を示唆したと解釈しても仕方ない」と述べたため、財団解散方針が決定済みかのように拡散した。
もう一つは、10月11日に韓国・済州島で行われた国際観艦式の参加形式を巡り、韓国海軍が自衛艦旗(旭日旗)の掲揚自粛を求め、反発した海上自衛隊の護衛艦が参加を見送ったことだ。韓国在住の保坂祐二・世宗大教授が旭日旗禁止法制定を求める提言を行い、ユーチューブでその映像が広まったことも影響した。10月初め、韓国メディアはこの話題でもちきり。対北朝鮮政策で連携するためにまず、日韓防衛当局者交流を強化した共同宣言を再評価し、今日に生かそうという声はかき消された印象だ。
二つの動きの発信源はバラバラだが、根底には「歴史問題で妥協をすべきではない」という対日不信がある。文政権には李洛淵首相はじめ金大中政権側近がいて、主にこの系譜が20年記念行事の前面に出たが、政権内部や周辺には「共同宣言は歴史精算で日本に譲歩しすぎた」という批判もくすぶる。文大統領は20年を契機に日韓関係改善へアクセルを踏もうとしたが、自身の側近や盧武鉉元大統領系からブレーキがかかったのが実態ではないか。
金大中政権の元高官は「金大中政権には、保革の対話をつないだ金鍾泌首相がいた。文政権にはそうした存在がいない」と葛藤の背景を語る。宣言を記念した後、生かすか封印するか。分岐点に今いる。(ソウル支局 2018年11月)
コメントを投稿するにはログインしてください。