皇帝と宗教 北京・河津啓介

 

河津啓介 本社員

「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」

聖書に記されたイエス・キリストの言葉だ。中国でキリスト教カトリックの現状を取材中、信者の口から何度も聞いて印象に残った。

さまざまな解釈があるが、世俗の権力を認めつつ、信仰の領域を守る「政教分離」に通じる考えと受け止める人が少なくない。

政治と宗教は絶えず微妙な関係だ。中国では歴代王朝が仏教や道教を国家統治に活用したが、19世紀の「太平天国の乱」のように反体制運動に結びついた例もある。

1949年の新中国建国後、54年に初めて制定された憲法で信教の自由は保障された。66年から10年間続いた文化大革命であらゆる宗教が弾圧されたが、78年に改革開放政策が始まると、信仰の空間が広がった。

改革開放の導入から40年の今年、中国の宗教政策は再び転機を迎えているように見える。習近平指導部は宗教への党の指導を徹底する「中国化」の動きを強め、河南省などで未成年者の宗教活動への参加が禁じられ、キリスト教会の閉鎖や十字架の撤去が相次ぐ。7月末には主要宗教団体の自主判断という形で、宗教施設での国旗掲揚が決まった。河南省の「嵩山少林寺」は開山から1500年の歴史で初めて国旗が掲げられた。

特派員 中国河津
中国・河南省の教会には「共産党員は宗教活動に参加してはならない」との看
板が掲げられていた=2018年7月、河津啓介撮影

党内の引き締めも厳しい。取材したカトリック教会の壁には「共産党員は宗教活動に参加してはならない」との看板があった。10月施行の改正中国共産党紀律処分条例は、信仰を持つ党員を除名や党籍はく奪とする処分規定を、新たに盛り込んだ。

「我々も中国人として国を愛している。心の自由を認めてほしいだけだ」。取材したカトリック信者の大半は、中国の政治体制まで否定していなかった。「踏み絵」さえ想起させる強硬な措置が、かえって当局への反発を生じさせているように思えた。

「中華民族の偉大な復興」を掲げる習指導部に、北京郊外のカトリック神父はこう願った。「かつて中国王朝が繁栄したのは、様々な文化や宗教、民族を受け入れる寛容さがあったからだ」 (中国総局 2018年10月)