「ニュージアム」を歩く 上海・工藤哲
「ニュージアム」をご存じだろうか。米国のワシントン中心部にある「ニュースの博物館」だ。ニュースのミュージアム(博物館)なので「ニュージアム」と言う。夏に上海からワシントンに出張した合間に、中を歩いてみた。
ここは報道の自由を推進する組織「フリーダム・フォーラム」が中心となり建設。2008年4月にオープンした。入り口近くには国内外の新聞各紙の1面のページが展示される。
伝えられているのは、世界や米国のジャーナリズム史そのものだ。入ってすぐに目に入るのが、1989年に崩壊したベルリンの壁の現物だ。東ベルリン側はただの灰色の壁。社会主義時代の激しい言論弾圧を思い起こさせる。
4階には、米同時多発テロ(2001年)が起きた世界貿易センタービルの上にあった放送アンテナもそのままの状態で置かれていた。脇にある当時の世界の新聞各紙と一緒に見ていると、連日伝えられていた当時の混乱ぶりを思い出した。

ニュージアムは日本とも無縁ではない。犠牲になったジャーナリストを追悼するスペースも設けられ、山本美香さんや後藤健二さんの名前があった。東日本大震災(2011年)も紹介されていた。
ニュージアムがオープンして今年でちょうど10年になる。広報担当のソニア・ガバンカさんが取材に応じてくれた。
彼女によると、世界各地から毎年85万人以上がここを訪ねている。定期的に展示の中身を変え「生きた博物館」づくりを目指してきた。トランプ米大統領がメディアを「フェイク(偽)ニュース」と批判して圧力を強めており、決して順調な環境とは言えないが「次世代のためジャーナリズムの改善のために働けることを誇りに思う」と語った。
報道の自由度を示す世界地図の展示で、中国は「自由ではない」と指摘されていた。実際に上海にいて、インターネットのサイトの利用制限などに日常的に悩まされている。伝え方を自問することも多いだけに、ここで力を得た気がした。
壁には「ニュースは歴史の第一稿」(ワシントン・ポスト元社主フィリップ・グラハム氏)という言葉。この仕事の重さを改めて見つめ直した。(上海支局 2018年10月)
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