対露関係を説く時だが・・・ モスクワ・大前仁

 

モスクワ大前今年も見慣れた光景で幕を閉じるのだろう。そう思っていた矢先に飛び出したのが、プーチン露大統領の発言だった。

「今すぐにとはいわないが、今年末までに前提条件をつけず、平和条約を結ぶのはどうだろうか?」

衝撃的な発言を聞きながらも、近くに座っていた安倍晋三首相は苦し紛れに笑顔を作るだけだった。

ロシア極東ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」。一昨年から参加してきた安倍首相は、プーチン氏と会談する機会としてきた。それなのに首脳外交が機能していないことを露呈してしまう。なぜ対露関係を動かせないのだろうか?

まずはロシアが米国との関係を著しく冷え込ませているからだ。万が一にも、ロシアが日本に対し、北方領土を引き渡せるような環境は存在しない。また今のロシアはソ連崩壊後の混乱から抜け出して久しい。実効支配してきた島々を引き渡してまで、対日関係を改善させるつもりは毛頭ない。

それではなぜロシアとしても、日本と向き合うのだろうか? 一つには西側陣営の一員である日本を引き寄せ、自国への包囲網を緩めたい狙いがあるからだ。また欧米からの経済制裁が解かれておらず、当然ながら、日本から投資や事業参入を引き出したい。北東アジアでの安全保障環境の変化を考え、日本に協力を求めている側面があるのかもしれない。

それでも日本としてはロシアと関わり、関係も改めたい。何も平和条約を結び、自らの功績としたい首相の思惑だけで動いているわけではない。

最も大きな理由は、今の北東アジアでは、北朝鮮と中国という「より大きな安全保障上の脅威」があるからだ。「少なくとも日本にとって、ロシアとは力を使い、アジアの現状を変えてくる勢力ではない」。あるベテラン外交官はこのように話し、ロシアと向き合う必要性を説こうとする。

しかし今回のプーチン氏の発言は日本国内で負の反応を呼び起こした。このような時だからこそ、首相はロシアと向き合う必要性を説き、国民の理解を得るべきではないだろうか。

だが修羅場を迎えながら、苦笑いしかできなかった姿を見る限りでは、そのような可能性が大きいとは思えない。(モスクワ支局 2018年10月)