技術革新 バンコク・西脇真一

 

バンコク西脇

一時帰国した際、途中寄航したソウルの食堂で思わずにやりとした。深夜にぶらりと入った店で「1人用プルコギ」というメニューを見つけたのだ。かつて駐在していたころは、韓国人は食事の時間を大切に考えるため、1人で外食するのに抵抗を感じる人が多いとされていた。プルコギは「朝鮮風すき焼き」と日本で説明され、鍋料理に近い。複数で注文するのが普通だ。ところが今や1人用メニューまで登場しており、社会の変化を感じた。

速度の速い「技術」の進歩に驚くこともある。出張などでLCCを利用することが多いが、荷物を預ける場合は、カウンターから自分で保安検査台まで運ぶのが普通だ。しかし、8月に利用したシンガポールのチャンギ国際空港は、自動手荷物預け機がずらりと並ぶだけ。自分でチェックインを終えると、スーツケースはコンベヤーで運ばれた。出国審査場にも人はいなかった。旅券をスキャナーに載せるとカメラが顔写真を撮影。入国時に採った指紋とも照合し、承認されるとゲートが開く。

「顔認証」と呼ばれるシステムを使っている。目や鼻、口端など顔の特徴点を検出し、その位置から同一人物かどうかを瞬時に判定する。精度が高ければ、加齢による顔の変化や顔の向きによる違い、解像度の低い画像にも対応するという。

知人にこのシステムを使ったという「動画」を見せてもらったことがある。映像の中で、仲間とだんらんする男がターゲット。画面が揺れているので、スマホで隠し撮りしたように見えた。「簡単に言えばハッキングだよ」。知人は多くを語らないが、他人のスマホを乗っ取り、顔認証システムで標的を捜し出すことも可能ということらしい。しかも、保存動画の中だけではなく、起動中のカメラを使って捜すことができる。「街頭防犯カメラ」と「顔認証」の組み合わせは考えたことはあるが、無数にあるスマホが踏み台にされることは想像していなかった。

この話を別の知人にすると「スマホのハッキングは簡単らしいですよ」。久しぶりに再会した先の知人に別れ際、記念写真を撮ろうと誘われた。「さあ、笑ったのも」。思わず「わたしのデータは絶対に使わないで」と頼まずにはいられなかった。(アジア総局 2018年10月)