デモ取材 バンコク・西脇真一

バンコク西脇♪イーンタナーショナールー――。
突然スピーカーから流れてきた曲に驚いた。19世紀のフランスで作られた革命歌のタイ語版。民政復帰に向けた総選挙の早期実施を求める集会の取材で、バンコクのタマサート大へ行ったときだ。構内の片隅であった集会で、プログラムの間をつなぐBGMの一つに使われていた。

初めて聞いたのは2000年代初め。マルクス・レーニン主義を信奉する過激派の全国集会でだった。そのころは社会部記者として、いろんな陣営の集会、デモをのぞいていた。東京での全国集会では「インターナショナル」「同志は倒れぬ」を斉唱していたが、タマサート大ではそばにいた一人のおじさんが、口ずさんだだけだった。様子を見に来た日本人専門家も「タイの集会で聞いた記憶はない。なんと言っても共産党は今も非合法ですからね」

一定規模の集会になると露店が出る。飲料、スナック、アイス――。マッサージの店まで現れるのは、タイならではだ。同大での集会は2日がかりで、翌日は警察が朝から警備指揮車のスピーカーで流行歌を流し、演説を妨害。昼過ぎからは、数㌔離れた首相府までデモ行進しようとする参加者と、警官隊がにらみ合い、小競り合いも起きた。だが結局、少人数の別動隊が首相府前で「声明」を読み上げ、本隊も「目的は達せられた」として解散した。

衝突を避ける「知恵」なのか。軍事政権下では政治集会禁止令も出ているが、運用は弾力的だ。見回せば、緊迫していたのは集会場周辺だけ。大学は試験期間で、キャンパスには男女の学生が普通に歩いていた。かつて民主化運動の拠点となった学校である。まだ、総選挙を求める声に広がりがないような気がした。一方で「当局が戸別訪問して集会に行かせないようにしていた。今回は当局が封じ込めに成功した」という話も聞いた。

かつて政治対立から何度も大規模デモが起きたタイ。「総選挙はワチラロンコン国王の戴冠式後」「実施候補日は来年2月24日から5月5日までの間」。軍政側の考えが少しずつ公になり、今は落ち着いたが、いつその要求が「発火」するかを見極めるため、今後も現場へ足を運ぶことになりそうだ。(アジア総局 2018年8月)

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