満を持して開催したアジア大会 ジャカルタ・武内彩

ジャカルタ武内

インドネシアで8月、アジア大会が開幕した。1962年以来の主催で、ジョコ大統領を先頭に国家の威信をかけた準備が進められてきた。メイン会場となるブンカルノ競技場や外国大使館、高級ショッピングモールなどが建ち並ぶ大通りは、特に目覚ましい変化ぶりだった。

大通りの両側に十分な広さの歩道が整備され、真横を走り抜けるバイクタクシーを心配せずに歩けるようになった。公共交通機関が少ないジャカルタで市民の貴重な移動手段となっているバス高速輸送システム「トランス・ジャカルタ」の停車駅もすっきり清掃された。終盤には24時間態勢で工事が行われ、一晩にして景色が変わるほどだった。

ジャカルタ9月1
1962年のアジア大会を記念して設置された大通りの「歓迎の塔」=ジャカルタで武内撮影

前回時に建てられた高さ17㍍の「歓迎の塔」周辺でも、「景観の邪魔になる」という州知事の一声で歩道橋が急に取り壊された。大通りを挟んで貴重な通路となっていた歩道橋がなくなったことで困る人が続出し、替わりに新設された信号機により渋滞はさらにひどくなったが、市民の間では「アジア大会だから、まあ仕方ないよね」という雰囲気が漂う。

久しぶりにジャカルタを訪れた日本人男性が、急激な変容ぶりと至る所で進む工事に「東京五輪の時もこうだったのかな」と漏らしていた。高度経済成長期の真っただ中だった1964年の東京五輪。国家主導で大型インフラが整備され、建設ラッシュも起きた。一方で公害被害が進行していたのだが、不便や無理に目をつぶってでも「生活はよくなる」と期待した時代だったのだろうと想像する。

2018年のインドネシアは、人口増加や最低賃金の上昇などを追い風に内需主導型の経済が堅調だ。経済成長率も5%前後を維持しており、消費欲や生活を向上させようという意欲には勢いがある。そこに満を持して国際大会の開催だ。

ただ、せっかく整備した歩道や停車駅はバリアフリーとは言い難い。ジャカルタの大気汚染は、米国務省の汚染度データ(8月6日現在)によるとインド・ニューデリーと並び、高齢者や子供には危険性が高いと指摘されるレベルだ。社会が勢いに乗っている時には、置いてけぼりにされる部分かもしれない。でもこういう不便や無理を押し通しても生活はよくならないのではないか、という気がしている。(ジャカルタ支局 2018年8月)

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