遅刻と首脳会談の評価 モスクワ・大前仁

モスクワ大前

ロシアのプーチン大統領が遅刻魔であることは知られている。2016年12月に山口県長門市を訪れたときには、3時間近くも遅れて日本国内をあぜんとさせた。世界的な権威であるフラシスコ・ローマ法王を相手にして、50分近く待たせたこともある。

案の定、5月末に安倍晋三首相と会談したときも、このパターンが繰り返された。会談開始の予定時刻が過ぎてから、プーチン氏が閣議を催す光景が流されたのだから、たまらない。結局、会談が始まったのは予定の1時間遅れ。玉突きを食らい、会談後に組まれていた文化行事は、2時間近くも遅れてしまった。

一連の話が伝えられると、SNSを中心にして日本国内では批判が飛び交った。「ロシアは失礼だ」「安倍はなめられている」「ロシアに金を貢ぐが、見返りを得られていない」。ロシアに強く出られない安倍政権への憤りが噴出した印象が強かった。

!cid_164888c5d52b4b4be041
5月26日に開かれた日露首脳会談の冒頭の光景=ロシア大統領府配信の映像より

ただし遅刻の一件だけを取り上げ、今回の日露首脳会談が失敗だったとは断じられない。確かにプーチン氏が遅刻したことや、会談の予定時間に閣議を開くことは礼儀正しくない。それでも、会談自体はほぼ予定に近い時間が費やされていた。会談冒頭で、安倍首相がプーチン氏に話しかける様子を見ていると、丁寧に話を聞いている。こわもてを崩さなかったが、何度もうなずく姿も印象深かった。

つまり安倍首相が対露外交に力を入れてきたことにより、ロシアが日本と向き合うようになってきたのは間違いない。「少し前のことを考えると、日本の首脳とここまで会うとは考えられなかった」。長年、対日外交に関わってきたロシア側の関係者も打ち明けてくる。

つまるところ、今の日本が領土問題を動かそうとするならば、よほど根気強くロシアと向き合い、振り向かせなければならないのが現実なのだ。この点では安倍政権が取り組んできた対露外交自体は、はなから否定するべきものではない。

ただし口を開けば、対露外交が順調に進んでいると繰り返す首相や周辺の発言は効果がない。むしろ日本国内で対露外交への不信感を助長している。そのように思えてならない。(モスクワ支局 2018年7月)

目次へ戻る