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ミャンマーに拠点を置いて経済活動を行うすべての企業に関係する法律が、「ミャンマー会社法」だ。ほぼ1 世紀前に制定された現行の会社法に代わり、今年8月、新たに施行される。日本企業にとってミャンマーで活動する、あるいはこれから進出を目指す上で何が変わるのか。Q&Aで解説する。

【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】

 ミャンマーでビジネスするには、「会社法」登記が必須に

 Q  どうして「会社法」が、ミャンマーを目指す日本企業に関係するの?

A    日本でも、会社を設立してビジネスを行うには商業・法人登記が必要です。ミャンマーでは会社法で「会社が事業を行うためには、会社法に基づく登記が必要」と定められています。

具体的には、登記がなされていなければ銀行口座は開設できません。自社の工場で使う原材料の輸入や輸出もできません。この決まりはミャンマー企業だけではなく、日本などの外国企業がミャンマー国内で事業を行う場合にも適用されます。また、外国企業がミャンマー国内に支店を開設する場合も、会社法に基づく登記が必要です。

Q  その会社法が、100年ぶりに新しく生まれ変わるんだね。

A    ミャンマーでの企業活動にとって最も重要な法律は「会社法」と「投資法」です。現行の会社法は1914 年に制定されました。ミャンマーは当時、英国の統治下にあり、その直前に制定された英国の会社法にならった内容です。その後、ほとんど改正されず現在まで存続してきました。

軍事政権が続いた2000年代までは、米欧の経済制裁の影響でミャンマーへの外国企業の投資はわずかで、古い法律が問題になることは少なかったのですが、2011年の民政移管で外国企業の進出が進み、特に外 国投資家を中心に、時代に合った新しい法制度の制定を求める声が強まりました。

政府はこれを受けて、まず2016年に新しい「投資法」を施行しました。それまでのいわゆる投資法は「外国投資法」と「内国投資法」に分かれていたので、一本化した形です。そして昨年、1世紀ぶりに内容を全面的に改めた新「会社法」を制定し、今年8月から施行することにしたのです。

「投資法」はミャンマー政府が望む企業への優遇措置を規定

 Q  「投資法」と「会社法」の関係は?

A 会社法に基づく登記を行えば、企業はとりあえずミャンマーで事業ができます。一方、投資法は、国にとって好ましい分野への企業投資を増やして経済を活性化するために、企業に対する優遇措置などを定めたものです。投資法に基づく「許可企業」になれば、さらに優遇税制などの恩恵を受けることができます。

日本企業が拠点を置いてビジネスを行う場合、投資法の「許可企業」となった方が有利ですが、審査に手間と時間がかかり、最低資本金も多額になります。このため、投資法を活用せず、あえて会社法のみに基づいて会社を設立し、ビジネスを行う企業もあります。各企業がどちらの方法が良いか、選ぶことになります。

投資法については、また別の機会に詳しく解説しますが、とりあえず、どちらの法律に基づいたビジネスでも、ミャンマーに拠点を置く場合は会社法に基づく登記が必要です。

従来は「出資1株」でも「外国会社」 今後は「35%超」 

Q 「会社法に基づく登記」をしなければ、ミャンマーでは「会社」として何もできない、ということだね。ところで新「会社法」では「外国会社」の定義が変わるって聞いたけれど、どういうこと?

A 「外国会社」の定義の変更は、日本企業にとって最も大きな変更点でしょう。現行の会社法では、1株でもミャンマー国外の資本が入っていれば「外国会社」とみなされ、ミャンマー国内でのビジネスにさまざまな制約(いわいる「外資規制」に当たるもの)が課せられてきました。

これに対し、新しい会社法では、「外国会社」の定義が「国外からの資本が35%を超える会社」と変更されます。外資比率が35%以下であれば、ミャンマーの「国内会社」とみなされるようになるのです。「国内会社」の枠が広がり、その枠に収まれば、「外国会社」に課せられる各種の外資規制の制約を受けずに済むようになるのです。

Q  「外国会社に課せられる制約」にはどんなものがあるの?

A 例えば、政府は投資法で、「外国人投資家には認めない事業」として①国内の言語で書かれた定期刊行物の出版販売②淡水漁業とその関連事業③動物輸出入のための検疫施設設置④ペットのケアサービス⑤森林地帯や政府が管理する自然林を利用した林産物の製造⑥鉱山法に基づく中小規模での鉱物探査、試掘、可能性調査、採掘⑦中小規模での鉱物精錬⑧浅堀りでの石油採掘⑨ビザや外国人居留許可証のためのシール印刷⑩ ヒスイや宝石の探査、試掘、採掘⑪ツアーガイドサービス⑫小規模商店、コンビニエンス・ストア(店舗面積929平方メートル以下)――の12項目を挙げています。これらの事業は「外国会社」は営むことができません。

外国会社への制約、土地の賃貸でも 

Q  そうなんだ。

A    そればかりではありません。「外国会社」は1年以上の長期の土地建物賃借ができません。つまり、工場や事務所の賃借契約を毎年、新たに結び直さなければならないのです。

最近は少し落ち着いてきましたが、2011年の民政移管後、外国企業の進出集中でヤンゴンの土地建物賃借代は急騰しました。日本企業は毎年の契約更新で大幅な値上げを要求され、大変な苦労でした。「国内会社」とみなされれば、長期の不動産賃借が可能になりますから、わずらわしい毎年の契約更新から解放されることになります。

なお、投資法に基づく「許可企業」は、外国会社であっても長期賃借契約を結ぶことが可能です。

新会社法で「営業許可制度」は廃止 

Q    それにしても、私たちからの出資比率が35%を超えれば、新会社法施行後も「外国会社」になってしまうんだね。

A  そうです。ミャンマー国内に、65%以上の出資をお願いできる信頼できるパートナー企業がない場合は、「外国会社」として活動するしかありません。

ただ「外国会社」であっても、新法では規制が緩和される部分もあります。現行の会社法では、「外国会社」としてビジネスを行うには、政府の「営業許可」を得る必要がありました。許可を得る過程で厳しい審査が行われ、これが事実上の外資規制として働いてきました。新会社法ではこの「営業許可制度」が廃止され、許可取得は不要になります。

また、現行の会社法では、会社を設立し登記を行うためには、商号の審査、営業許可申請、登記手続きなど、何度も紙の書類の提出を求められ、非常に面倒な手続きになっていました。政府は新法施行に合わせ、登記

手続きのすべてがオンラインで完結するシステムを整備するとしています。手続きは大幅に簡素化する見通しです。

Q  なるほど。でも「35%の出資」では、資本の半分以上を相手に握られることになり、ちょっと微妙だなぁ。

運用面でなお不透明感も 

A もう1点、先に説明した土地建物の長期賃借契約について付け加えると、実は「外資50%以下」の企業であれば、長期賃借が可能になる可能性があるんです。「外国会社」の長期賃借を禁じているのは「不動産譲渡制限法」という法律です。この法律の中に「外国会社とは外資50%を超える企業」と定めた条文があるのです。

ミャンマーの法律に詳しい日本大使館の関係者によると、「不動産譲渡制限法」は現行の会社法よりも新しい法律で、その規定は現行の会社法に優先されます。このため、これまでも「外資50%以下」の会社は土地建物の長期賃借が可能だったはずなのです。

ところが実際には政府は法の運用を誤り、旧会社法の定義を適用して「1株でも外資の入った会社」の長期賃借契約を禁じてきたのです。法律と実際の運用に食い違いが生じており、日本企業から問い合わせを受ける現地の日系法律事務所も、説明に苦労してきたそうです。

Q  そうなんだ。

A    政府は2011年以降の民主化改革で本格的に外国企業の呼び込みに乗り出し、運用の誤りに気付いた。これを解消するために、わざわざ新法に「不動産譲渡制限法の規定を妨げない」との条文を盛り込みました。

会社法を所管する政府投資企業管理局(DICA)は、非公式にですが「土地賃借については条文を文言通り適用する」と表明しています。この言葉通りならば、8月からは「外資50%以下」の企業は不動産譲渡制限法上の「国内会社」として、長期賃借が可能になるのです。

ただ、大使館の関係者は「これまでも法律と実際の運用に隔たりがあったわけで、現時点では8月以降、『50%』になるか『35%』になるか、実際の運用に注目するしかない」と慎重な姿勢を崩していません。

新会社法下、日本人役員は現地常駐に? 

Q    少し難しいけれど、どちらにしても、これまでよりは土地長期賃借の規制が緩和されることは間違いないんだね。ところで新会社法で、これまでよりも厳しくなる点はないの?

A    特に日本企業に関係が深そうなのが、「取締役の居住要件」という項目の新設です。日系企業の現地子会社 では、シンガポールやバンコクなどに居住する社員がミャンマー子会社の役員を務めることも多いのですが、

新会社法には「最低1人の取締役は、年間183日以上、ミャンマー国内に滞在していなければならない」との規定が盛り込まれました。

ミャンマー側にとっては「ミャンマーに会社を作る以上、責任者はミャンマーに住んでいるべきだ」との考え方なのでしょう。それは理解できるのですが、日本企業にとっては、これまで周辺国から出張することで済ませていた現地会社の日本人役員を、ヤンゴンに常駐させる必要が出てくるなど、人事上の運用が厳しくなる場面も出てきそうです。

Q  すでに進出している会社も、新会社法に基づいて登記をし直さなければならないんだってね。

A 外国会社、国内会社を問わず、ミャンマーにあるすべての会社が、8月1日から来年1月31日までの半年間に、新たに登記をしなければなりません。政府は「オンライン登記で手続きは非常にやりやすくなる」と、企業に協力を求めています。

また登記にかかる料金はこれまで約400米ドルでしたが、半額の約200ドルに引き下げられます。すでにミャンマーで登記している企業は、オンラインでの再登記を忘れないようにして下さい。