金正恩氏がシンガポールから学んだことは? ソウル・渋江千春
6月12日の米朝首脳会談の取材のため、1週間、シンガポールに出張した。会談前日の 11日夜、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が突然外出した。その後、約2時間にわたる「観光」の詳細が判明したため、取材が一段落した13日、足取りを追ってみた。
海辺にある複合リゾート施設「マリーナベイ・サンズ」。 56階の展望デッキに登ると、目の前には色とりどりのネオンが輝いていた。高層ビルだけでなく、海辺にあるイベント会場やテーマパークもライトアップされている。海に浮かぶ船の明かりまで、計算されているかのようだった。

香港、ニューヨークなど、旅先では必ず夜景を見てきたが、お世辞抜きに今まで見た中で一番美しい夜景だと思った。
この夜景を眺めながら、金委員長は「聞いていた通りきれいで美しく、建物ごとに特色がある」と語ったとされる。朝鮮中央通信の報道によると、金委員長の今回の「観光」の目的は「シンガポールの経済発展の実態調査」だった。観光名所「マーライオン」近くにかかるジュビリー橋では、都市計画について説明を受けたという。
私もシンガポールは初めてだったが、高層ビルだけでなく、モダンなデザイン建築と、緑豊かな町並みが共存する姿には感銘を受けた。道路やトイレに関しては、正直ソウルよりもきれいで快適だった。食費が高いことを除き、1週間の滞在中、何不自由なく過ごすことができた。
ただ、短い滞在で私が見たのはシンガポールの一部分だ。1965年のマレーシアからの独立以後、急速な経済発展を支えたのは「開発独裁」とも言われる強権的な政治手法だ。今も初代首相で「建国の父」と呼ばれたリー・クアンユー氏が結成した人民行動党(PAP)による事実上の一党独裁が続いている。現首相はリー・クアンユー氏の長男、リー・シェンロン氏だ。
北朝鮮は今年に入り、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」から経済建設に総力を集中する新路線へ転換したばかり。金氏が経済発展だけでなく政治体制もシンガポールを参考にすれば、どうなるのか。非核化の行方と共に、ふと不安がよぎった。(ソウル支局 2018年7月)
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