ODA情報11986年の対外開放政策(ドイモイ)以来、2000年~2010年の平均経済成長率が7%を超えるなど、順調に経済成長を続けてきたベトナム社会主義共和国。1人当たりのGDPは2005年時点の700米ドルから、16年には2172ドルと3倍増に急伸した。その旺盛な経済を支えてきた一番の柱が政府開発援助(ODA)。日本からの円借款は2012年度以降、2000億円前後で推移し、その累計は2兆7047(外務省発表)億円に上る。これに無償資金協力の1506億円(同)と技術協力の1762億円(同)を加えた援助額はベトナムのODA受け取り額の3分の1に及び、「間違いなく世界一(の援助国)」と国際協力機構(JICA)ベトナム事務所の北村周次長は説明する。しかし、日本から見たその〝世界一の被援助大国〟が今、大きな転換期を迎えようとしている。【日刊建設工業新聞常務国際事業本部長・髙橋治光、写真は円借款で建設されたベトナムで最長の海上橋=ハイフォン市内

 

深刻さ増す公的債務の増加

 

国際通貨基金(IMF)の推計では、ベトナムの2000年度の歳入は約4300億円(日本円換算)で、12年度が3兆5100億円、18年度は6兆400億円と順調に拡大を続けている。しかし、歳出の増加はさらにそのスピードを上回る。2000年度当時は4700億円と概ね歳入と歳出の均衡が取れていたが、12年度には4兆5700億円と1兆円も歳出が超過した。18年度はさらに収支のバランスが悪化し、歳出は7兆2700億円に膨らんで歳出超過は1兆円を大きく上回る見通しだ。
政府総債務残高で見るとさらに深刻さが増す。2000年度に6600億円だった同残高は、ODAの有償協力への転換とともに急速に拡大、年度には7兆5000億円に達した。年度は国家予算の2倍を上回る兆円超の債務残高となり、国家財政は危機的状況に陥っている。
これを対GDP比でみると、2000年度に31・3%と3分の1程度だったがものが、13年度に51・8%と初めて5割を超え、18年度は58・4%と6割に迫る勢いだ。このような債務超過の現状を重く見たベトナム政府はIMFや国際金融機関からの指摘もあり、早い段階から公的債務管理強化に乗り出している。

 

公的債務残高を 対GDP比65%に抑制

 

財政赤字などを背景にした継続的な公的債務の累積により、ベトナム政府は2012年の国会で公的債務残高を対GDP比で%に制限することを議決。その後、公的債務の増加傾向を鑑みて公的債務管理の強化を目的とした5カ年国家財政計画が16年秋の国会で承認された。

計画では、公的債務及び外国債務に関する戦略として20年までに公的債務対GDP比65%以下、政府債務対GDP比55%以下とし、2030年までには公的債務対GDP比60%以下、政府債務対GDP50比%までさらに抑制強化する。さらに国会決議で、財政赤字対GDP比を3・9%(16年からの5カ年平均値)、20年度は単年度で3・5%に抑制する計画も盛り込まれた。

「ベトナム政府は2016年下期から管理をかなり厳格化している。しかし、17年上期は目標値スレスレの状況」(北村次長)で、ベトナム政府には焦燥感が広がっている。

 

中期公共投資計画(MPIP)で外国資金を抑制へ

 

このように深刻な財政赤字を背景とした継続的な公的債務の積み上がりから、ベトナム政府は2016年から20年までの公共投資の目標や具体的な投資予算の総額、実施計画を盛り込んだ中期公共投資計画(MPIP)を策定した。投資予算の総額は約10兆円(2000兆ドン)に設定され、このうち外国政府資金は約1・5兆円(300兆ドン)に抑制する計画だ。

外国政府資金は計画期間5カ年に実効性のあるプロジェクトに対して、各借款契約に基づいて支出される。ただ、約1・5兆円の投資予算額のうち約1・4兆円分のプロジェクトは、16年10月末までに借款契約を締結した案件に配分されるため、実質の新規案件枠は5年間で約1531億円にとどまる。外国政府資金に限ると新規案件枠は単年度ベースで306億円までとなり、日本だけで2000億円程度で推移してきたODAは極端に減少することになる。

また、予算配分された借款契約締結案件のリストは、計画投資省(MPI)が各省庁・地方政府に割当額を設定の上で国会に提出。国会財政諮問委員会と国会経済委員会が中心となって審議するなど厳格化している。ただ、同計画が「公共投資事業の実際の資金需要を考慮した現実的な内容となっていない」(北村次長)など、実効性を疑問視する見方もある。厳格に運営した場合は借入可能な外国政府資金の上限1・5兆円程度(単年度ベースで3000億円程度)を全ドナーが分け合う事業採択が必要となり、MPIは難しい舵取りを迫られそうだ。

一方、MPIは「2018―2020年のODA活用方針および2021年以降の展望」をまとめている。MPIPの上限を5兆円程度引き上げるとともに、プロジェクトプロポーザル前の候補案件などの新規案件は21年度以降に後ろ倒しされる見通しだ。「こうした財政の逼迫もあり、日系企業への支払い遅延問題も徐々に表面化している。事業に着手したものの、サスペンドするか悩むコントラクターも各地で現れている」(北村次長)のが現状だ。

 

改正公的債務管理法などが発効

 

今年7月に発効した改正公的債務管理法では、中期・各年計画に基づく管理の厳格化をはじめ、国会・政府・地方政府などの責任の詳細化、刑罰追求及び可能性が明記され、債務抑制を企図した内容となっている。投資計画を所管していたMPIから財務省(MOF)に対外交渉やODA案件の組成、債務管理を一元化した。転貸や政府保証付与の厳格化も盛り込まれ、「ファイナンスの間口がかなり厳しくなっている。細則や政令の発表はまだだが、JICAとしてもその運用を注視している」と北村次長は話す。
法律の施行により懸念されるのがODAへの影響だ。案件形成にかかる手続きが長期化し、転貸対象者要件の厳格化に伴う候補対象事業の実施遅延や減少など懸念される点は多い。旧法条でMPIをハブとしていたODA案件形成の手続きが、改正法では初期段階からMOFが借入的確性審査の主体的実施を行うように変更されたことで、借款案件形成手続きの長期化及び借入抑制への転換は必至の情勢だ。とくに日本企業にとっては、なじみの薄いMOFとのやりとりに一層困難を強いられそうだ。

転貸の厳格化は結果的に電力分野(発電)のODA縮小を招き、財政基盤の脆弱な地方政府に対する案件形成が厳しくなり、地域格差を拡大する可能性も秘めるなど、ベトナム政府の財政事情の悪化を背景にODA事情は大きく変わろうとしている。

なお、17年11月の国会では南北高速道路を3フェーズに分けて整備する案が承認された。20年までの11事業のうち、8事業にPPP(Public Private Partnership)スキームを見込むなど民間資金の積極的な活用が目立つ。ただ、これまでも計画が立ち上がっては消えてきたベトナム型のPPP事業がどこまで定着できるのか、こちらも目が離せそうもない。