視野もさすがの大谷選手 ロサンゼルス・福永方人

福永方人P「チャック開いてません?」。不意に飛び出した一言で、張り詰めていた空気が和らいだ。

5月7日、右肘の手術から打者として米大リーグ復帰を果たしたエンゼルスの大谷翔平選手が、試合後のインタビューが終わった途端、男性記者にそう指摘したのだ。報道陣は笑いに包まれ、「よく見てるなー」と感心しきり。四球を選んだこの日の最終打席について「(走者が)盗塁したのも見えていたので、視野の感じは悪くない」と話した直後だけに、その言葉を裏付ける形となった。

復帰戦は4打数無安打だったが、手応えをつかんだようだ。「1打席目からいろいろ考えながらできたのはよかった」「打席に立っている感じとか、良くなってきているという感覚を持てた」

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大リーグ復帰戦で打席に立つ大谷翔平選手。アウェーでもひときわ大きな声援を受けていた=米中西部デトロイトで2019年5月7日、福永方人撮影

昨季の最終戦以来219日ぶりの実戦で、しかもいきなりクリーンアップの3番に抜てきされても、「特に緊張はしなかった」と気負いは感じられない。グラウンドでの様子から取材の受け答えまで、常に自然体に見えた。目先の結果に左右されず、あくまで自分の感覚に向き合い、適応していく。環境が変わっても結果を出せるゆえんだろう。

昨季は投打の「二刀流」に挑み、投手として4勝、打者では22本塁打を記録。日本人選手としてマリナーズのイチローさん以来17年ぶりの最優秀新人(新人王)に選ばれた。そのイチローさんは3月の現役引退会見で、大谷選手について「世界一の選手にならなきゃいけない。投手で20勝して、翌年に50本塁打を打ってMVPを取ったら化け物ですよね。でも想像できなくない」と刺激的なエールを送った。本人も「ありがたいお言葉をいただいた。糧にして頑張りたいという気持ちはもちろんある」と、偉大な先輩の激励に奮い立っている。

開幕から1カ月あまり遅れてのスタートとはいえ、今季は打者に専念する。となれば「50」とは言わずとも、昨季を上回る本塁打数を期待する人は多いだろう。予想を超え続ける若武者の2年目の挑戦から目が離せない。

それにしても、インタビューに淡々としっかり答えながら、実は内心「あの人チャック開いているな」と気にしていたとは。やはりただ者ではない。(ロサンゼルス支局 2019年6月)