「正論」故のやっかいさ ニューデリー・松井聡

デリー松井

「彼の主張はイスラム教スンニ派からすれば、正しかった。だが彼の主張を実践すれば、他宗教との間で必ず問題が起きる。だからみんな彼を追放しようとしていた」。スリランカで4月21日に発生した連続爆破テロ事件の首謀者とみられる宗教家、ザフラン・ハシム容疑者を知るスリランカのイスラム団体幹部は、ハシム容疑者が出身地の東部カッタンクディで孤立していた原因をこう打ち明ける。

 

「イスラム教徒であればカリフを支持しなければならない」「ジハードに参加することは義務」。ハシム容疑者のこうした主張は、欧米の民主主義的な社会では危険視される。だがコーランに書かれているのも事実で、敬虔なイスラム教徒であれば否定しがたいものだ。

現地で取材すると、他人を完膚なきまでに批判するハシム容疑者の性格や態度への批判は多いが、カリフ制やジハードに対する批判は皆無だった。

一方、仏教徒が7割を占めるスリランカで暮らすイスラム教徒は従来、こうした原理主義的な考え方とは距離を置いてきた。地元イスラム団体トップのN・M・アミーン氏は「彼の主張は他宗教との摩擦を引き起こす。到底受け入れられない」と話す。スリランカで少数派のイスラム教徒は貿易など商売を営む人が多い。彼らは多数派の仏教徒やキリスト教徒と対立するのではなく、他宗教に寛容になりながら生き抜いてきた。アミーン氏にカリフ制やジハードの是非について質問すると、「住んでいる世界の現実を受け入れなければいけない」と曖昧な答えが返ってきた。イスラム教徒にとって否定しがたい「正論」を振りかざし、安定した生活を脅かすハシム容疑者は脅威だったのだ。

スリランカでは1970年代以降、スンニ派の中でも厳格なワッハーブ派がサウジアラビアなど湾岸諸国の支援で浸透しており、「イスラム国」(IS)の主張が受け入れられやすい土壌はあった。ただどんなに「穏健派」が多いイスラム社会であっても、スリランカのようにISに共鳴する人々は今後も出続けるだろう。彼らにとってはカリフ制を掲げ、シャリーア(イスラム法)の適用を主張するISこそ理想なのだ。一連の取材を通じて、ISとの戦いは終わりが見えないことを痛感した。(ニューデリー支局 2019年6月)