農林水産省が日本産の米の輸出拡大に力を入れている。中でも米の消費量の多いアジア諸国への市場開拓に熱心だ。民間事業者もあの手この手で知恵をしぼるが、最近、健康に寄与する高付加価値型の「機能性米」が注目されている。いったいどんな米なのか。【毎日アジアビジネス研究所客員研究員 小島正美】

日本国内では米の消費量が減り続け、米が余っている。米の一大消費地である香港やシンガポールなどアジア諸国への輸出を増やせば、日本国内の食料自給率(カロリーベース)のアップにもつながるが、なにせ日本の米の価格はアジア諸国の米に比べて数倍も高い。そのまま輸出したのでは勝ち目はない。

そこで注目されているのが健康増進に貢献する機能性米ともいえるメディカル・ライス(医療米)だ。独特の精米機メーカーで知られる東洋ライスが開発した「ロウカット玄米」(英語名はキンメマイ・ベター・ブラウン)が2017年4月、シンガポール政府健康促進局から、安全で健康によい食品として認証される「ヘルシアチョイス」に選ばれた。15年3月から国内外で発売していたが、この認証で知名度がぐっと上がった。

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輸出強化を図る「金芽米」と「金芽ロウカット玄米」=長野市南長野北石堂町のJA長野県ビルで2017年8月25日、ガン・クリスティーナ撮影

 

ロウカット玄米は、玄米の表面にある防水性のロウ層をきれいに除去して、食物繊維やミネラルなど玄米の栄養価を保ちながら、炊きやすく、食べやすくしたお米。血糖値の上昇を抑え、腸内環境をよくする働きがあり、シンガポール政府の目に止まったわけだ。

シンガポールといえば、人口は約600万人と少ないものの、国民一人あたりの所得は世界第2位の富裕国(15年)だが、糖尿病など生活習慣病の増加に悩める国でもある。昨年8月、リー・シェンロン首相は建国記念日で「国民の9人に1人が糖尿病だ」と深刻な数字を示し、全国民に向けて、白米を玄米や雑穀に変えるよう訴えた。シンガポールは60歳以上に限ると10人のうち3人が糖尿病という深刻ぶりである。

こうした中、注目を浴びたのが日本産の米を加工したロウカット玄米だったのである。特に知名度を高くしたのは、シンガポールでも有名な5大私立病院のひとつである「トムソン病院」(THOMSON・MEDICAL)で患者向けの療法食に採用されたことである。ここでは妊婦が一定期間食べる健康な米としても人気だ。

東洋ライスは以前から、金芽米(英語名はキンメマイ・ベター・ホワイト)も国内外で販売している。金芽米は、糠とともに取り除かれていた栄養分の高い亜糊粉層(あこふんそう)を残した白米。このロウカット玄米と金芽米は、これまでにシンガポールの日系「明治屋」「三越伊勢丹」のほか、現地の地元資本スーパー(日本で言えば、イオンやイトーヨーカ堂のようなもの)など67店で販売されるまでになっている。

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シンガポールの明治屋の売り場に並ぶ日本産のお米=東洋ライス提供

 

価格は1キログラムあたり9~10シンガポール・ドル。タイなどから輸入された米に比べ、2倍以上高いが、健康によい日本産のブランド米として順調な滑り出しを見せている。

ロウカット玄米は島根県産の品種「きぬむすめ」、金芽米は長野県産の品種「コシヒカリ」を使う。アジアへの輸出が伸びれば、付加価値の高い米を栽培する日本の農家の所得向上にもつながる。

ところが、ここに来て、異変も起きている。

昨年後半あたりから、日系の大手安売りチェーン店が農機具メーカーと組み、シンガポールの店舗で日本産の米を激安で売り始めたのだ。その価格は、現地の地元スーパーで売られているタイ産などの安い米と同程度というのだ。日本の古米や古古米を現地へ持ち込み、そこで精米して安く売る戦略のようだ。

シンガポールの消費者は、日本人のように収穫年や産地、品種をあまり気にしない。価格が安いせいで、売れ行きはけっこうよいという。

熊本県産の米を売る熊本県農畜産物輸出促進協議会も玄米で輸出し、現地で精米して高品質の米を販売してゆく戦略を取っており、成功している。これからは日本産米の現地精米が人気を呼びそうだ。

すでにシンガポールには日本食レストランが1100店舗以上ある。病院や健康志向の強い消費者は付加価値の高い機能性米を好み、庶民派は日本産の激安米を買うという共存が成立すれば、日本産米の拡大につながりそうだが、現状では日本産の激安米が売れると、付加価値の高い高級米の売れ行きが鈍るという悩ましい現象も起きているという。

日本産の米は品質がよいというイメージで販売してきた東洋ライスの担当者は「ビジネスの世界だから、競合会社が出てくるのはやむをえないが、日本産の米のイメージ自体が悪化するのが心配だ」と共存策を探る。

日本の事業者同士の競争が激しいとはいえ、米の輸出の将来が暗いわけではない。

米の健康機能に詳しい渡邊昌・アジア太平洋臨床栄養学会長(医師・元国立健康・栄養研究所理事長)は「ロウカット玄米のほか、腎臓機能の悪い患者に活用できる低たんぱく米など、医療分野にも使える機能性米なら、今後アジア諸国でもっと需要が伸びる」と見ている。

農水省もアジア諸国の伸びに期待する。所得水準の向上や富裕層の増加などで、安全かつ高品質でおいしい日本産米は今後も高い評価を得ていくとの見通しだからだ。

その証拠に輸出量は年々伸びている。シンガポールへの米の輸出量は14年には1295トンだったが、16年は2350トンと短期間で2倍近くも増えた。農水省の最新調査では、日本全体の海外への米の輸出量は1万1841トン(17年)で、13年に比べると約4倍に伸びている(http://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/kome_yusyutu/attach/pdf/kome_yusyutu-150.pdf)。

輸出相手国で一番多いのは香港の4128トン(約35%)、次いでシンガポール2861トン(約24%)、米国986トン(約8・3%)、台湾943トン(約8%)の順だ。同じアジアでもマレーシア、タイ、ベトナムへの輸出は300トン以下で少なく、今後も伸びる余地は大きい。

農水省は昨年9月、米の海外市場を拡大させるためのプロジェクトを立ち上げた。全国農業協同組合連合会や全農パールライス、神明、木徳神糧、東洋ライス、クボタなど62事業者を戦略的輸出事業者と位置づけ、シンガポールのほか、中国、台湾、タイ、ベトナム、マレーシア、モンゴル、米国などをターゲットに輸出拡大を進めている。現在も戦略的輸出事業者を募集している。問い合わせは農林水産省政策統括官付農産企画課企画版(03・6738・8964、kome_yusyutu@maff.go.jp)

 

小島さんP

こじま・まさみ 1974年、毎日新聞社入社。松本支局などを経て、87年から東京本社・生活報道部で食や健康問題を長く担当。今年6月末に退社。現在は毎日アジアビジネス研究所客員研究員、「食生活ジャーナリストの会」(約150人)代表。東京理科大学非常勤講師も務める。著書に「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」(エネルギーフォーラム)など多数。