私はヤンゴンで運動ジム「Revolution GYM」を経営している。お客さんはすべてミャンマー人である。今回は働いてくれているスタッフについて紹介したい。 

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人材の特徴

ミャンマーに進出した日系企業が口をそろえて言うのは、ミャンマー人はすぐ辞めるということだ。一つの企業で長年勤める日本とは異なり、よりよい条件を求めて転職を繰り返す「ジョブホッピング」文化がある。そのため面接で志望理由を聞いても「給料が良かった」とか「家から近い」といった、淡泊な理由で応募してくることが多い。こういった回答に目くじらを立てる人もいるかも知れないが、私は気にならない。面接が嘘つき大会にならないだけ、むしろ良いと思うからだ。

私はこの文化を尊重し、ある程度は辞める前提で採用することにしている。彼らが辞めるときは「田舎の親戚が具合悪いので休みたい」と言って、その後連絡がとれなくなる。こちらとしては正直に「給料が少ない」など不満を言ってくれた方が良いのだが、面と向かって本音をいえない気の弱さがある。退職の連絡を本人ではなく、本人の彼女が伝えに来たこともあった。

これまでに3人が辞めた。最初のうちはこちらから電話をかけ、辞める理由を聞いてこちらも反省しようとしたが、聞いても理由が二転三転するので真の理由はわからなかった。冷淡かもしれないが、去る者を追わないスタイルが良いのかもしれない。

女性が優秀

もう一つ、よく言われることは、女性が優秀だということだ。昨年末、日本では医学部入試の合格点に男女差が設けられていることで大きな問題になった。ミャンマーではそれを公に行っており、女性の方がテストの点数が高いというのは周知の事実だ。私が知る限りヤンゴンの日系企業で働くスタッフは8割が女性だ。女性しか採用しないという会社もあるほどだ。

個人的な意見として、勉強の能力は男性も女性も差があるようには見えないが、男性は突拍子のないことをしてくるイメージがる。実際に体験したこととして、ある男性が辞めて2ヶ月経過した後、車の事故を起こしたからと修理費を請求されたことがあった。

もともとルールでガチガチに縛ったことはやりたくないが、罰則などをしっかり明示して契約書をつくる重要性に気がついた。これだけで「言った言わない」の水掛け論をある程度防ぐことができる。

人材の探し方

ジム開業前にミャンマーでスタッフを探すのに、筋トレ好きが集うFacebookのコミュニティーに求人を書き込んだ。給料がそれほど高くなかったので集まるか不安だったが、10名以上の応募があった。

全員をジムに呼んで面接をしたが、日本の常識はここでは通じない。面接に遅れてきたり、友達や彼女を連れて来る。面接時間直前になってオフィスの場所を確認する電話がかかってきたりもした。

ジムの先生というのは、体の見た目が重要である。トレーニングの仕方を教えたり、サポートしたりするのは必ずしもマッチョである必要はないのだが、客は見た目で先生を品定めする。お客に見下されないためにも、少しいかついくらいが丁度良い。そのせいかジムのスタッフは、おしとやかな事務スタッフよりもトラブルが多いのかもしれない。

長く頑張ってくれるスタッフ

2このジムで1年以上働き続けているのはテインという女性=写真左=だ。彼女は長いトレーニング経験があり、コンテストでの入賞経験もある。そのため彼女に憧れて来る客もいた。現在はジムに住んでもらい、開店や閉店のすべてを取り仕切ってくれている。備品が切れたり壊れたりするとかならず連絡してきて、指示を仰ぐ。簡単なことは自分の判断してやってほしいと思うこともあるのだが、連絡をくれるだけで十分である。お金に関しても信頼でき、ちゃんと報告してくれる。休みをとる時にも連絡してくれるのでこちらの予定を立てることができる。

普段何もしてあげていなく、感謝の気持ちもまともに伝えられていない。彼女はジムの名前で介護施設へ多額の寄付をしてくれた。それほど会社のことを思ってくれていたのかと思い、嬉しくなった。

トラブルメーカー

こういう良いスタッフがいる一方で、問題を引き起こす男性スタッフもいた。彼については面接時から少し違和感を感じていた。ある30代の男性と面接をしているとどうも話が噛み合わない。確認すると彼自身が働きたいのではなく、その友人が働きたいとのことだった。結局、働きたい本人は1時間遅れで到着。その時点でおかしな感じなのだが、10カ所のジムで働いた経験があり、体が非常に大きかったので採用した。

日常的な遅刻や、何かしら理由をつけての欠勤が多くあった。また、客が「エアコンを消してくれ」と言っても無視するなど、他人の言うことを聞かない頑固さがあった。そして一番やっかいな問題は、複数のお客に借金を無心することだった。

そういったことが積み重なり、女性スタッフから不満が出てきたため、ルール違反に関して罰金規定を設けて、罰金を給料から引くことに同意してもらった。それでも改善は見られなかったので、約束通り給料を大きく引いて渡した。客からの借金も、給料から差し引いて私が返すつもりだった。大幅に減らされた給料を見て、彼は泣いて謝り、まだこのジムで仕事を継続してがんばりたいと言ってくれた。私もそれを見て心を動かされた。

女性スタッフは、彼がこの給料日を機会に辞めると思っていたようで、続けて働く旨を伝えると渋い顔になった。そして、その場にいた客と一緒に彼の悪事のすべてを暴露しだした。ジムの小銭を盗む、気の弱そうな客に高価なプレゼントを強要する、客の携帯を勝手に見るなどだ。借金も私が把握しているより多く、総額で1万円以上借りていた。

そして最も驚いたのが彼が26歳ではなく、19歳だったことだ。10カ所のジムの経歴について、どれも数日間でクビになった事を隠すため、26歳と嘘をついていた。誕生祝いまでジムでやっていたのに、ずっと気が付かなかった私はずいぶん間抜けである。スタッフや客から私が責められ、「ミャンマーなら普通はクビだ」と迫られた。決断が遅きに失したが、ようやく彼には辞めてもらった。6カ月同じ場所で働いたのは、彼の中で最長であったはずだ。

マッチョの荒くれ者を雇用するのは楽ではないと、痛感した瞬間だった。

 

伊勢明敏顔Pいせ・あきとし

1988年生まれの31歳。北海道大学工学院修了後、㈱ニコンに入社し光技術の研究開発を行う。2015年に退職後、ミャンマーに移住し、ミャンマー語と仏教を勉強。貧弱な体がコンプレックスだったが、友人の勧めで筋トレを始めた。熱中のあまり、ついには現地でジムを開業することに。