◆企業が海外で事業展開を図る際に、避けて通れないのが法務対応だ。日本と海外のビジネス習慣や法律の違いから、海外では各種の法的トラブルに巻き込まれやすい。そんな時、頼りになるのが、海外でのビジネスを知り尽くした日系の法律事務所によるサポートだ。このコーナーでは毎日アジアビジネス研究所と提携する「虎門中央法律事務所」(東京都港区、今井和男代表弁護士)に所属する経験豊富な弁護士のみなさんから、これから海外進出を検討する中小企業を念頭に置いて、さまざまなアドバイスを頂戴する。

海外進出に際しては、弁護士の幅広い活用を

 

平野 賢  平野 賢

虎門中央法律事務所弁護士(毎日アジアビジネス研究所海外進出特別アドバイザー)

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虎門中央事務所は、これまでタイやシンガポールなど諸外国における企業買収案件や、日系企業のインドネシア公務員に対する贈収賄被疑事件(不起訴で終了)など数々の海外案件に関与し、日系企業の海外進出サポートを積極的に行っている。第1回目の今回は、海外進出を検討する際の初歩的な留意点や、弁護士の活用という視点について簡単に触れてみたい。

企業の海外進出の際の留意点

 

 

  • 進出の目的・ターゲットの明確化

企業、特に中小企業の海外進出にあたっては、進出の目的やターゲットを十分検討し、明確にすることが重要である。例えば、自社製品の強いニーズやその国における優位性を意識した積極的かつ明確な進出目的があると、事業戦略を描きやすくなる。また、マーケットの中でも、どのような顧客層にアプローチするのか、それが消費者層であったとしても、性別、年齢、人種、定住者、観光客、あるいはその国に在住する日本人をターゲットにするのか、こうした点の具体化・絞込みは重要である。

  • 市場・異文化の研究・理解

その国固有の市場特性や文化、歴史や風習などについて十分に研究し、理解することが必要である。例えば、ある製品を現地で製造・販売しようとする際、日本であれば性能やサイズが重視されるが、高温多湿

な国においては耐久性や修理の容易さといったものがより重視されやすい。また、例えば世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアでは、毎年ラマダン(断食)が行われ、ラマダン明けにはこれを盛大に祝うという日本にはないイベントで、大きな市場が発生する。このように、各国における固有の状況を十分に理解し、それを、自社の進出目的やターゲットの明確化の過程において咀嚼していくことが不可欠である。

  • 信頼できる現地パートナーの確保

東南アジアでは、日本と比較して、ビジネスにおいて「人との信頼関係」がより重要とされる傾向にある。したがって、市場参入の際には現地で信頼できるパートナーを見つけることが効果的である。また、現地パートナーはいわゆる外資規制の関係でも必要となることが多い。多くの国においては、自国産業保護のために、外国資本のみによる現地法人の設立を禁じている。このような国では、現地のパートナーに 50% 超を出資してもらい、当事者間において両者対等の立場で意思決定を行うなどの覚書を締結して対応するといった方法を取ることが多い。

海外進出における弁護士の活用

 

 

  • 弁護士の必要性

一般的に、日本と海外では契約に対する考え方(契約文化)が大きく異なる。日本国内に

おいては、必ずしも契約書面が存在しなくても、共通するビジネス慣行や取引上の信頼関係に基づく一種の暗黙的な了解が存在し、それを遵守するという土壌がある。しかし海外では、こうした「暗黙の共通理解」は存在しない。したがって、取引においては双方の協議・交渉に基づく合意事項を書面化して明確にしておくことが不可欠となる。弁護士は、こうした際に必要な支援を提供できる。

  • 弁護士の支援業務

弁護士が支援できる業務は多岐にわたるが、企業の海外進出段階に応じて整理すると、おおむね以下のとおりとなる。

①   法令などの調査

海外取引においては、日本法と現地法の双方を遵守する必要がある。この点、現地の弁護士に依頼をすることは、適切な弁護士を探すこと自体の困難さに加え、外国語でのやり取りを必要とするなどのハードルがある。しかし、日本の弁護士であれば、現地の弁護士と連携を図り、双方の関係法令について調査の上、これを一体として日本語で報告し、企業をサポートすることが可能である。

②   取引契約などの作成・レビュー

企業の海外進出の第一歩としては、商品の輸出入等個別取引を行う場合が多く、この場合、取引契約を締結することになる。こうした契約においては、事後のトラブルを防ぐために、商品の引渡時期、代金支払条件、製造物責任、免責条項、あるいは紛争が生じた際の解決方法、準拠法などについて、弁護士の助言を踏まえて慎重に検討し、十分理解したうえで契約を締結する必要がある。

③   現地への進出スキームの立案・実現

事業が進捗し、現地進出を考える段階にあたっても、弁護士の活用は有益である。企業のニーズに応じて、駐在所、支店、現地法人、ジョイント・ベンチャーなど、さまざまな選択肢の中から、コスト、経

営の自由度、将来の成長戦略を勘案して、適切な手法を採ることが可能となる。もちろん、その後の現地での活動におけるさまざまな法的問題にも幅広く対応が可能である。

弁護士はその専門性を生かしつつ、さまざまな形で海外に進出する企業に対しサポートをしている。これから海外進出を検討している企業の皆様においては、弁護士の積極的な活用もあわせてご検討いただけると幸いである。

平野賢  略歴

1998 年       東京大学教育学部卒業

2000 年       虎門中央法律事務所入所

2003-2009 年 日系及び外資系の大手金融機関等が共同設立した

事業再生系プライベート・エクイティ・ファンドに出向

2008 年       虎門中央法律事務所パートナー就任

2011 年       London Business School (Sloan)  留学

2012 年       虎門中央法律事務所に復帰

現在は、主に上場企業等による国内・国外の事業買収等にリーガル・アドバイザーとして関与するほか、非上場・中小企業の取引に関する、各種契約書作成・取引交渉の代理人等として、法的支援を積極的に行っている。