望月

虎門中央法律事務所弁護士 望月崇司

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現地パートナーとの共同事業開始にあたり、前回解説したNon-Disclosure Agreementに続いて実務上締結されるのが、日本語では一般的に覚書や基本合意書などと呼ばれるMemorandum of Understanding (MoU)である。一方当事者がレター形式で基本合意の内容となる意思を伝え、他方当事者がこれに署名し、承認するという、いわゆるLetter of Intent (LOI)形式の場合もあるが、意義・内容についてはMoUと同様である。そこで本稿では、MoUについて解説する。

1. MoUの意義

現地パートナーと合弁会社を設立して共同事業を実施しようとする場合、正式な本契約(Definitive Agreement)の締結まで、相当程度の時間を掛けて交渉することが予想される。そこで、両当事者が交渉を継続する意思を確認しつつ、その時点までの当事者の了解事項を定めておくためにMoUを締結するのが一般的である。かかるMoUは正式な本契約前の仮の合意であり、その後の交渉や事情変更次第で内容が変更される可能性がある(さらに言えば、正式な本契約の締結に至らないことも十分あり得る。)ことから、法的拘束力を持たせないことがほとんどである。

2. MoUの内容

MoUの内容としては、(1)交渉継続の双方の意思確認、(2)本契約における重要な条件、(3)本契約締結までのスケジュール、(4)優先(独占)交渉権、(5)秘密保持条項、(6)一般条項、(7) 法的拘束力の有無などがある。

(2)本契約における重要な条件としては、出資比率、少数株主保護の方法、会社の運営方法などが挙げられる。(4)優先(独占)交渉権とは、特定の期間、それぞれ排他的独占的に交渉するものとし、第三者と同様の交渉を並行しないことを約するものである(内容により若干のバリエーションが存在する。)。(5)秘密保持条項は、前回取り上げたNDAを別途、独立して事前又は同時に契約せず、MoUにおいてこれを定める場合などに規定される。(6)一般条項としては、準拠法、裁判管轄、言語などは最低限規定するべきである。(7)法的拘束力の有無とは、MoUに法的拘束力を持たせるか否かについて条項であるが、一般的には法的拘束力を有する条項を特定し、それ以外の条項は法的拘束力を有しないと定めることが多い。法的拘束力の有無については次項にてさらに詳しく解説したい。

3. MoUにおける留意点~Binding条項とNon-Binding条項~

上記のとおりMoUには多くの内容を含めるが、法的拘束力を有しない、すなわちNon-Bindingであるケースが多い。本稿2において述べたとおり、法的拘束力を有する条項(Binding条項)を特定し、それ以外の条項は法的拘束力を有しない(Non-Binding条項)と定めるのが一般的であり、例えば、「上記(4)優先交渉権、(5)秘密保持条項、(6)一般条項については法的拘束力を有し、その他((1)交渉継続の双方の意思確認、(2)本契約における重要な条件、(3)本契約締結までのスケジュール)については法的拘束力を有しない」というように規定することが多い。

MoUというタイトルだからといって、およそ法的拘束力がないわけではない。上記のようなNon-Binding条項がなければ法的拘束力を有することになるため、注意が必要である。他方、Non-Bindingであるとすれば、MoUに具体的な共同事業に関しての取決めを記載して、いかにフォーマルにMoUを締結しても、これについては法的拘束力を有さないことになり、確定的に法的効力を発生させるためには正式契約を締結する必要がある。したがって、MoUの内容を精査し、法的拘束力を有する条項とそうでない条項を十分把握しておくことが肝心である。

ところでMoUのケースではないが、このNon-Binding条項を利用した極めて悪質なケースの相談を受けたことがあるため、ここで紹介したい。依頼者は、外国企業に対して貸し付けを行っていた。かかる貸金については幾度となく修正合意(支払日の延期)がなされ、すべて有効に成立してきた。ところが、最後に締結された支払日の延期にかかる修正合意にだけNon-Binding条項があり、後に正式な本契約(Definitive Agreement)の締結が必要とされていたのだ。依頼者はかかる最終の修正合意を締結したことで安心しきっており、正式な本契約は締結しなかった。その後、依頼者が外国企業に対して支払請求したところ、最終の修正合意で延期された支払日は無効であると主張してきた。さらには、有効な支払日ははるか以前に到来済みであり、しかも自ら弁済を怠っていたにもかかわらず時効が成立しているとまで主張されてしまった。時効完成を狙って意図的に行われたことは想像に難くなかったが、訴訟をすれば時間も費用もかかることから、依頼者は結局回収を断念せざるをえなかった。このケースは極めて悪質かつ異例かもしれないが、Non-Bindingであることを把握していないことがいかに危険かを端的に示す事例と言える。是非ご注意頂きたい。

4. まとめ

以上のとおりMoUを締結するにあたっては、必要な情報を記載した上で、正しくBinding条項とNon-Binding条項に指定することが求められる。したがって、MoUのドラフトは弁護士を活用するべき典型的な場面であるため、うまく弁護士を利用して頂きたい。

もちづき・たかし 2002年上智大法学部卒、08年慶応義塾大法科大学院修了。09年虎門中央法律事務所入所。16年5月米ジョージタウン大学Law Center(LL.M.in International Business and Economic Law)修了。17年7月米国ニューヨーク州弁護士登録。同年9月虎門中央法律事務所復帰。訴訟などの紛争処理案件に多く関与し、特に、被告、債務者が海外に居住するケースなどの国際訴訟に精力的に取り組んできた。法分野としては知的財産権(主に著作権法)に関する紛争・相談等を多く扱ってきた。 16年9月から17年7月まで、アメリカに所在する日系資本のメーカーに企業内弁護士として勤務。同社において、契約書チェック・管理、訴訟対応・管理、コンプライアンスなど企業内弁護士として幅広い業務に関与した経験を活かし、現在、グローバルなリーガルアドバイスを提供している。