リーガルコーナー鈴木弁護士

虎門中央法律事務所弁護士 鈴木隆弘

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前号では香港での現地法人設立について説明した。「法人」という箱が出来たら次は実際に働く「人」が問題となる。本稿では雇用関係に係る法務について検討する。

 

1 出向者

日系企業の多くは、現地法人のマネジメントとして、日本本社から出向者を香港に送り込んで現地に駐在させるという方法を採る。

ここで必要となるのが就労ビザの取得である。所管は香港イミグレーション(入境事務処)である。就労ビザの取得に際しては、申請者について、深刻な犯罪歴が無いこと、申請者が香港にとって有益で、特別な技術、知識、あるいは経験を有していること、申請者が現地法人に必要な理由(何故香港人の雇用では充足できないのかという観点)、香港経済に実質的に貢献できることなどが要求される。また、申請者の給与やその他の待遇が専門職としての標準的な水準を満たしていることも要件である。また、雇用主としては、雇用契約書、会社の業務内容に関する資料、(設立後間もない場合)事業計画書等の提出書類を整える必要がある。

ところで、直接的に就労ビザ取得の障害となるポイントではないものの、香港においては、基本的に日本的な「終身雇用」という発想がない。そして、その帰結の一つとして、日本では当たり前の在籍出向という概念が一般的には馴染みがない、ということを念頭に置いておくと何かとコミュニケーションが捗る。香港人の感覚からすると出向元との雇用契約を解除(つまり転籍出向)することなく、被用者と①出向元(日本法人)及び②出向先(現地法人)双方との二重の労働契約を結ぶという状態は奇異に映るのである。

2 現地人の雇用

香港における雇用関係で遵守すべき法令でもっとも重要なのは「雇用条例」(香港法例第57章)である。

香港雇用条例の適用対象者は、雇用関係が「継続的契約」かどうかで決定される。

継続的契約とは、労働時間が1週間に18時間以上、かつ連続4週間以上雇用されている状態を意味し、それに該当する以上は、条例上の権利(年次有給休暇、産前産後休暇など)を付与する必要が生じる。パートタイム、契約社員等の会社目線での分類は関係がなく、あくまで現実の労働時間が問題となる。

香港には、「ダブルペイ(double pay)」または「サーティーンス・マンス・ペイ(13th month pay)」と通称される年末手当も存在する。継続的契約の関係にある労働者は、雇用契約に基づき受給権を持つ。利益分配の年末のボーナスとは非なるものなので、契約上規定した以上、例え業績が振るわなくとも支払義務がある。雇用契約上「ダブルペイ支給なし」と規定することは、雇用条例に違反せず可能であるものの、古くから慣習として存在し、「旧正月前に貰えて当たり前」という感覚を多くの香港人が持っていることは留意しておきたい。金額については、雇用契約で規定した額または、定めがない場合は、月間総賃金に相当する額 (直前12か月間の総賃金をもとに平均月給を算出)される。

ちなみに、最低賃金は、2011年から法定され、2年毎に逓増してきた。直近では2017年5月に引き上げられ、現在時給34.5香港ドル(約483円)である。

3 雇用契約の解除

有為な人材の活用は香港進出成功の鍵を握るといってよいが、背面として、問題のある人材には辞めて貰う必要がある。

日本は、国際的にみれば正規雇用の解雇が相対的に困難な部類の国であり、多くの日本企業はそれをベースに標準的感覚を形成しているため、相対的に容易な国に進出した際でも、問題のある社員等の解雇について慎重になりがちである。

香港はまさにその意味では容易な部類に属する地域で、①労働者の行為、②労働者の業務において必要な能力・資格、③法令の規定、④その他の実質的な理由――のうち1点でも問題があることを証明できれば、労働者を任意に解雇することが可能である。

労働契約が前記の「継続的契約」に該当する場合、解雇予告又は解雇予告に変わる支払いが必要になる可能性がある。まとめると次の表のとおりとなる。

リーガルコーナー表

なお、いくら解雇が容易とはいえ、当然ながら一定の労働者保護もなされている。前記要件を満たしても、産休中の労働者、有給病気休暇中の労働者、労働組合等の集会や活動に参加したことを理由とする場合、当該労働者について労働災害が発生し、その保障についての協議が完了していない場合等については、解雇はできない。

他方で、不正行為・詐欺行為をした労働者、常習的な職務怠慢、労働者が合法的かつ合理的な職務命令に従わない場合等は、上記の予告通知またはそれに代わる支払すら不要で即日解雇できる。とはいえ、安易に該当判断を行い即日解雇するのはリスクが高いので、専門家の助言を仰いで進めるべきであろう。

すずき・たかひろ 2000年3月国際基督教大学教養学部卒、08年上智大学法科大学院修了、09年虎門中央法律事務所入所、15年CFNローヤーズ法律事務所(香港)出向、16年虎門中央法律事務所復帰。業務分野は契約から訴訟まで多岐にわたる。様々なクライアントに対して、不動産、コンプライアンス、コーポレート・ガバナンス、M&A、ファイナンスその他企業法務一般についての助言をしてきた幅広い経験を有している。香港の高名な法律事務所での執務経験を生かし、IPO(香港)及び中国・香港関連のクロスボーダー案件についても、実践的なリスク分析に基づく法的アドバイスを行う。上記の以外では、刑事弁護分野における豊富な知識及び経験も有する。