ミャンマー第2の都市でありながら、日系企業にはまだまだ「未知の地」であるマンダレー。数少ない進出企業の1社が、地元の老舗ビール会社「マンダレー・ブルワリー」社に出資したキリンホールデングスだ。ライバルメーカーにはない「歴史の重み」を活かして、ブランドの再生に取り組んでいる。

アジア有数の歴史誇るビール企業

キリンホールディングスは2015年、ヤンゴンにあるミャンマー最大手のビール会社「ミャンマー・ブルワリー」社に出資。一方で17年、マンダレーに拠点を置く「マンダレー・ブルワリー」社にも出資し、市内にある醸造工場におけるビールの製造・販売ビジネスを引き継いだ。

マンダレーブルワリー社は、英国のビルマ併合とほぼ同時期の1886年にビール製造を開始したアジアでも有数の歴史を誇るビール会社。ミャンマーブルワリー社が1990年代に生産を開始した新興企業であるのとは対照的だ。

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自社製品を前にミャンマーのビール市場について語る藤原義寿・マンダレーブルワリー社長

経済成長でアルコール消費量が年10%ずつ増え続けているミャンマーで、拡大する市場をつかむには国の中央にあるマンダレーに、もう1カ所、製造工場を持ちたい。マンダレー社への出資にはそんな思惑がある。しかし、かつては国内で8割を誇っていたという老舗マンダレー社のシェアは、国営企業が経営していたこともあり、キリンが出資した昨年暮れの時点で全国で1%、マンダレー市内でも2%程度という、ひどい状態に陥っていた。

品質管理でおいしいビールを

「品質が安定せず、十分な営業活動もやっていない。地元でも高齢者は知っていても、若者はマンダレービールを知らないという状況でした」と、キリン出身の藤原義寿・マンダレーブルワリー社長。まずは日本流の品質管理を徹底し、おいしいビールを地元の人に味わってもらうことから始めた。

ビールは輸送途中の振動と熱に弱い。道路事情が悪くトラックが揺れる上、コールドチェーンが確立されていないこともあって、それまで全国に出荷していたのを、上ビルマ地方に集中することにした。

消費者にできるだけ鮮度の良いビールを楽しんでもらうため、製造・出荷体制を見直すことで、昨年までは製造から消費者まで数ヶ月かかっていたのを数週間に短縮した。

地元マンダレー市内や周辺に約100カ所ある、「アウトレット」と呼ばれるバーベキューなどとともにビールを楽しむビヤホールには、生ビールを醸造場から直送している。そのうち30店では、製造直後から消費者の飲用時まで温度管理が徹底された、通常製造から3日以内の特別な生ビールも販売している。

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日が暮れ、一杯ひっかける市民でにぎわうアウトレット。ビール各社のシェア争いの主戦場だ

多くのアウトレットでは各社の生ビールをサーバーから味わうことができ、兄弟会社でシェアトップのミャンマービールや、2位のダゴンビールと激しいシェア争いを繰り広げている。自宅に冷蔵庫がない人々は、アウトレットで購入したビールをペットボトルで持ち帰り、「家飲み」を楽しんでいるという。

成長必至のフロンティア

「市場が縮小する中でシェアの取り合いをしている日本に比べ、ミャンマーはこれから市場が伸びるフロンティア。しかも上ビルマは所得が低いのにヤンゴンなど下ビルマと同レベルの消費量がある。今後、生活が豊かになれば、もっとビールが飲まれるようになる可能性がある」と藤原さん。

英領となる以前のビルマ最後の王国の首都だったマンダレーには、王宮や数多くの仏教施設などヤンゴンにはない「歴史」がある。醸造場にも130年前の設立以前からの建物や20世紀前半の醸造設備が残り、ビールの博物館のようだ。「我が社には他社にはない歴史がある。ブランドをしっかりと立て直し歴史的な価値を伝えていけば、新しいマーケットが拓けるはずです」 【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之、写真も】

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130年以上の歴史を誇るマンダレーブルワリー社の醸造場