ビジネス情報②上田さん縮小

土木、建設の杭工事一筋年の「高脇基礎工事」(埼玉県北本市、門脇佳典社長)が今年3月、ベトナムのハノイに現地法人「TKエンジニアリングインターナショナル」を設立した。代表に就任したのは、元伊藤忠商事社員でアジアのビジネスに詳しい上田祐嗣さん(64)=写真。経済発展めざましい同国に進出した狙いや、日系企業がベトナムで事業を始めるにあたっての心構えなどを聞いた。【聞き手=日刊建設工業新聞常務国際事業本部長・髙橋治光、毎日アジアビジネス研究所・野島康祐】

 

 

--ベトナム進出の理由は?

高脇基礎工事は地場の土木業者で、全国展開をしていないし、海外と取引していたわけでもない。英文の書類を読める人間もいない。そこで、海外での仕事が長かった私に、門脇社長から「ベトナムに出たい」と声がかかり、お手伝いすることになった。
伊藤忠商事で16年働き、ここに来る直前はバンコクで工業用ナットを作る会社にいた。ベトナムやタイなど東南アジアで会社をやっていくにあたり、法律や労働問題など考えなければならないことがいっぱいある。東南アジアに進出しようと考える中小企業は多いが、体力の問題、人材の問題もあり、実際はなかなかできない。限られた地域に根を張っている会社のオーナー社長が「海外に進出しよう」と考えたところで、なかなか自社だけでは展開はできない。
「現状を打破したい」「将来に向かって何か吸収したい」という企業は多くても、会社の内外に反対の声が多いと聞く。取り引き銀行や、会社の経理担当者の反対を押し切ってやっている方が多いのだろう。十分な勝算があるわけでもなく、「アジアに足を突っ込んでから考えてみよう」という経営でいいのか、と自分でブレーキをかける人もいる。
高脇基礎工事の場合、将来の人手不足に対する危機感があった。いま、中小企業で働こうという日本の若者は少ない。若者自体が少なくなっているのだから、今後、ますます厳しくなる。そこで、将来的に若い人材の提供国になるかもしれないベトナムに「足を突っ込もう」と考えた。
--ビジネス本位ではなく︑将来を見越して人材をベトナムで見つけようと?

 

ええ、儲けようと思って始めたわけではない。今後、埼玉県の土木、建設業の人手不足は、大変なことになる。でも、現場のある仕事というのは、寒いし、暑いし、雨は降るしで、日本人の若者は来てくれない。いま、多くの中小企業は、外国人の技能実習生を受け入れている。いろいろ批判されている通り、実習生を労働者として使っているのが実情だ。
ところが、土木業が好きで仕事を学びたい、技術指導を受けたい、研修したい、というベトナム人はほとんどいない。「日本に行ったら儲かるよ、お金稼げるよ」と聞いて来日し、日本語を勉強するけど、実はお金も貯めたい人が多い。せっかく仕事を学んだのに、それでは将来に生かせない。制度上の問題(これまで技能実習は最長3年)もあったので、土木を研修したのに「ベトナムに帰ったら服屋をやりたい」「靴屋をやりたい」という若者が実際いる。

 

--どんな人材を見つけたいですか?

 

まず、TKエンジニアリングがベトナムでコネクションを作り、現地の土木関係者とネットワークができたところで、人材を引っ張りたい。我々杭打ち業者の仕事は、人間ができる仕事でなくて、機械がする仕事。機械を使える人間が来てくれないと、仕事にならない。機械を使える人は、即戦力だ。一番ほしいのは、機械をオペレーションできる人や、杭打ち特有の杭打ち機を使える人、現場の土地を見て仕事のやり方を決められる「段取り屋」とかね。現場で1年間やってもらえば、役に立つようになる。

先日、創設が決まった「高度プロフェッショナル制度」に該当するような人材は必要ない。杭打ち工事はそんな高度な技術を使うわけではない。ゼネコンなら3次元CADを使える人がほしいだろが、中小企業はそこまでいらない。政府が考えている高プロな人材が必要なのは大企業だけ。

--それがどうしてベトナムなんでしょう?
地元の埼玉大に、ベトナムからの留学生がたくさん、都市工学などの勉強に来ている。高脇基礎工事は、大学のグランドやスポーツ施設を草野球チームに貸す事業のお手伝いをしてきた。それで、ベトナム人学生つながりできことで、ベトナムに関わるようになった。

各地域の中小企業には、閉塞感がある。これ以上、仕事は伸びないし、若い従業員への希望、刺激がない。これを何とかしたい。高脇基礎工事は非常に地域密着の会社なので、全然違う突破口を作りたい、国際という分野に何のつながりもない会社だけど、世界とつながりを持ちたい。

働きたい人を集め、ここ(ハノイ)で、練習すればいい。高脇基礎工事の機械を持ってきて、使ってくれる人を探す。段取りややり方、施工、機械の動かし方は日本と同じだ。ここで1年も仕事したら、日本でも通用する。即戦力だ。ただ、当面はハノイで工事を受注することよりも、高脇基礎工事の技術を生かせる現場を見つけることを優先したい。将来的には、杭打ち工事の技術指導や、機械のリースもやってみたい。工事を受注するよりも、コンサルタント的な位置づけから始めたい。

--これからベトナム進出を考えている企業にアドバイスを

ベトナムはかなり日本に近いのではないか。例えば、ハノイには四季がある。食べ物が柔らかい。辛い物がない。クセがあまりない。文化や雰囲気が日本人になじみやすい。日本も受け入れやすい。

でも、法律面など海外進出には恐い面もある。高脇基礎工事がベトナムに来たからといって、ほかの中小企業にもお勧めできるか、と言われたら、答えはNO(ノー)だ。社内には反対意見もあった。進出先の事情をしっかりと調べ、その上で日本から飛び出すことをお勧めしたい。