ミャンマー第2の都市マンダレーにあるマンダレー国際空港。この空港の管理・運営を担っているのが、日系企業「MJAS」(MC-Jalux Airport Services)社だ。空港民営化の動きは各地で進むが、ターミナルビルだけではなく、エアサイド(滑走路やエプロンなど航空機運航に直接関わる施設)まで含めて管理・運営を請け負うのは、日本企業にとってマンダレーが初めて。今後の空港民営化受託ビジネスのモデルケースともなる、マンダレー空港の現場を訪ねた。【毎日アジアビジネス研究所】

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中国・昆明行きの国際線出発を前に、ビジネス客や観光客でごった返す搭乗ゲート。カウンターで作業に当たるのはMJAS社のミャンマー人社員だ

中国人ビジネスマンや観光客が列をなす空港の国際線搭乗ゲート。マンダレー発中国・昆明行き国際線の出発だ。「おい、1人足りないぞ」。空港スタッフの1人が色をなしてカウンターに駆け込んできた。
国際線については、旅客のチェックインや搭乗口での作業も航空会社からの委託を受けてMJAS社の社員が行っている。搭乗手続き済みの旅客数と、ミャンマー当局による出国管理手続きを済ませた人数が一致しない。規模があまり大きくないマンダレー国際空港のターミナルビルは、国際線と国内線の旅客動線が完全に分離していない。どうやら旅慣れない旅客の1人が、出国手続きをしないまま通り抜け
てしまったらしい。

大あわてで名簿をチェックし、高齢の中国人旅行者を見つけ出すと、スタッフは大急ぎで旅行者をパスポート・コントロールまで連れ帰り、なんとか出発手続きを完了させた。

商用客から観光客、あらゆる年代の客が利用する国際空港の運営は、ハプニングの連続だ。案内してくれたMJAS社コーポレート部門ゼネラルマネジャー、五島慶さんも苦笑いする。

「半年前にここに着任する前は、三菱商事でモンゴルの首都ウランバートルの空港建設プロジェクトに取り組んできた。稼働する空港の運営は初めての経験」と五島さん。

「老朽化空港」を再生

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ビルマ王宮風の飾り屋根を備えたマンダレー空港ターミナルビル

マンダレー国際空港はビルマ王宮風の飾り屋根があるターミナルビルに、搭乗ブリッジが6基。日本の大きめの地方空港ほどの規模だ。太陽光を取り入れた明るい設計の出発階には、銀行の両替窓口や売店、コーヒーショップなどが並び、〝普通の空港〟の風景だ。

「今は、そう見えるでしょう。我々が運営を引き受けた3年半前は、すさまじい状況だったのですよ」。MJAS社の廣井太副社長(三菱商事出身)は、そう言って笑った。

マンダレー中心部の南約30キロにある空港は2000年、市街地にあった旧空港の閉鎖とともに開業した。成田空港よりも長い4268メートルの滑走路と、タイ大手建設企業が手掛けた近代的なターミナルビル。十分な施設で開業した新空港だったが、その後、まともな維持・管理が行われなかった。

当初、管理・運営はミャンマー当局が直接行っていた。がらんとして、何の施設もない出発ロビー。搭乗ブリッジも、客の荷物を運搬するベルトコンベアシステムも壊れたまま動かない。コンピュータが稼働せず、チェックインは手作業。トイレは水が流れない。免税店や売店はあるものの、多くの小さい出店が並び雑然としていた―― 。

ミャンマー民政移管後の2012年、政府はヤンゴン、マンダレー両空港の管理・運営を民間に委託(民営化)することを決めた。ミャンマーへの積極進出を図っていた三菱商事は、日本航空グループの航空関連商社である「JALUX」社とともに入札。マンダレー空港の30年間の運営権を獲得し、地元大手事業会社を加えた合弁会社MJASを設立して15年4月1日から同空港の管理・運営を引き継いだ。

契約では、ターミナルビルの運営だけではなく「エアサイド」の管理・運営まで、航空管制、税関等と燃料に関する業務を除く空港のほとんどの業務をMJAS社が行う。エアサイドまで含めた空港運営の受託は、日本企業にとって史上初の挑戦となった。

日本品質、まずは安全確保から

「国の運営ではうまくいかないので、『後はすべて宜しく頼む』ということでの民営化」(廣井さん)。やり
始めてすぐに、既存の空港を改善するのは、新しい空港を造るよりも大変だということに気が付いた。引き継ぎ前から着任した廣井さんたち日本人スタッフが、最初に従業員に示したのが、「安全、清潔、スマイル&ホスピタリティー、チームワーク」という4つの「コアバリュー」だった。

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免税店や売店が整備された現在のターミナルビル出発階
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到着した航空機へのゲートの割り当てなど、空港全体の管理・運営を行うMJAS社のオペレーションコントロールセンター

「空港全体をコントロールするわけだから、事故が起きた際の対応も必要となる」。住民が壊して侵入することもあった空港の外周25キロのフェンスを修復したり、半分しか点灯しなかった航空灯火を修理するなど、まずは最低限必要なエアサイドの安全性確保に奔走した。

一方、それまで公務員だった約300人の従業員をそのまま受け継いだ。「給料も安く、やる気もなく、笑顔もない。お客様にとって『感じの悪い空港』だったわけです」。日本からトレーナーを呼んだり、毎年スタッフを各国に派遣したりするなど、「空港としての品質を上げるための人材投資」として教育活動に取り組んだ。

日本航空のホスピタリティを受け継ぐJALUX社は、トレーナーの派遣を通じて日本流の空港運営を徹底する。航空機の荷物積み卸しなどに当たるスタッフの、事故防止のための指差確認は当たり前。驚かされたのは、出発する航空機を、地上スタッフが一列に整列して手を振って見送ることだ。日本では当たり前になっているが、海外の空港ではほとんど行われていない。五島さんは「これはJALさんの文化。日本品質の空港を実現するという強い気持ちの表れです」と話す。

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整列して出発する航空機に手を振るMJSA社の地上スタッフ

利益を確保 地域や社員への貢献

ミャンマーの経済成長、特に中国とのゲートウェーであるマンダレーへの追い風を背景に、2011年度年間53万人だった旅客数は、民営化した15年102万人、17年度132万人と順調に増加。2000年の開港当初は中国・昆明線だけが細々と飛んでいた国際線は、現在、広州、深圳、西安、バンコク、チェンマイ、シンガポールを加え計7路線に拡大し、1月からは待望の上海からの直行便も就航する予定だ。

国際線1人20米ドル、国内線は3000チャットという旅客の空港利用料のほか、航空会社が支払う着陸料、駐機料、グランドハンドリング料金などが会社の収入の柱。投資も多額に上ったが、会社は初年度から黒字を維持している。

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廣井太MJAS副社長

「空港運営は、中長期的に成長を実現させ、地域や社員に貢献していく責任を負う。一方で、民間としてやる以上はずっと適正利益を出し続ける必要がある。パイロット事業的な甘いものではない」と廣井さん。これまで商社の得意ジャンルだった重厚長大のインフラ整備事業などに比べ、直接、一般の空港利用者と向き合うサービス産業である空港運営は、自身にとって新しい分野だったという。

当初、三菱商事社内には「労務リスクがあるのではないか」などと懐疑的な見方もあったというが、「ミャンマー人の従業員は我々日本人の言うことを素直に聞いてくれ、労使関係もうまくいっている。今年からは配当も出すことができた」と、廣井さんはほっとした表情を見せる。

世界の潮流でもあり、新たな「成長の目」である空港民営化ビジネス。三菱商事は今年8月、国内外の有力企業と組んで、福岡空港の30年間の運営受託契約を受注した。三菱商事は今後もマンダレーでの経験を活かし、空港事業のビジネスをさらに発展させていきたい考えだ。