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大武健一郎

元国税庁長官、ベトナム簿記普及推進協議会理事長

ベトナムのハノイで日本語による複式簿記の普及活動を始めて、はや14年。卒業生は1500人を超えた。私自身、ベトナムには回以上通った。こんな話を聞いた方々から、次のような相談が舞い込んでくるようになった。多分に、日本の人手不足が影響しているようだ。
「ベトナムの技能実習生は他の国の方々と比べてよく働くと聞くので、ぜひ紹介してほしい」

「どの国も人件費が上がってきて、ベトナムも同様だと聞く。ベトナム人はなかなか優秀で、粘り強いそうだが、実は中国やタイからベトナムに工場を移したい。どこに出たらいいか相談に乗ってほしい」

「ベトナムのどこに、どのような形で進出したらいいか悩んでいる。何度かベトナムを訪問して調べているが、情報が輻輳していてよく分からない」

「ベトナムにはコンピューターソフトのエンジニアが多いと聞く。我々中堅企業は良い人材が集められないので、ベトナムに会社を作って取り組みたい。インターネットで送受信すれば関税も消費税もかからないので、すでにいくつかの同業他社が進出している。我々も進出したいので、よろしくお願いしたい」

しかし、一口にベトナム進出といっても、国土は全長2000キロ、北海道から鹿児島県の大隅半島まであり、面積は33万平方キロと、九州を除いた日本と広さとほぼ同じだ。しかも、フランスに占領される前は北部ベトナムと南部ベトナムに分かれて国はひとつになっていなかった。さらに、1000年以上前には、チャム族というインドネシアから来た民族がチャンパ王国という国をつくっていたこともあった。だから、言語も北部、中部、南部では、物の言い方や発音がかなり違っている。

人種的には、現在はキン族が大半(86%)を占めているが、53もの少数民族が全土に点在している。中国人も、ホーチミン市を中心に約90万人(全人口の1%弱)いる。宗教は大多数が日本と同じ大乗仏教だが、カトリックのほかカオダイ教、ホアハオ教など土着宗教も息づいている。前述のチャム族の方々には、イスラム教徒が多い。

こんな感じだから、一口にベトナムといっても、どこに進出するかが極めて重要となる。しかも、ベトナムはいまだに省ごとの地域の結束力が強く、日本の明治期の長州閥と薩摩閥のような地域の絆が強力だ。

なので、相談を受けた際にお勧めしていることがある。①日本の大学院に通っていて、日本語の堪能なベトナム人学生を2、3人採用する②その中から「信頼できそうな人」を選ぶ③「信頼できそうな人」が卒業した大学が立地する地域を進出のターゲットにする④「信頼できそうな人」たちと一緒に適地を探したり、優れた送り出し機関や人材教育機関を探す――といった事前準備の大切さだ。

事前準備をスムーズに行うためには、日本で採用する学生が「信頼できる人物か」「ベトナムの中で家族のステータスがどのくらいか」などをよく見極めることが重要である。できれば、目を付けた学生の両親らを日本に招待し、家族ぐるみの付き合いをすることをお勧めしたい。

進出が失敗するリスク

言い換えれば、調査に十分な時間をかけなければ進出が失敗するリスクは高まる。十分に調査しないで進出すると、日本で採用した学生がどんなに優秀でも、現地でのステータスによっては地元で良い人材を集められない。まして、地元の共産党幹部との付き合いもうまくいかず、無駄な賄賂を取られたりする。だから、事前にその学生と家族ぐるみの付き合いを深め、よくよく調査する必要がある。

技能実習生の送り出し機関を選ぶ場合も同様だ。送り出し機関は各省ごとにあり、日本の受け入れ機関と連携しているので、十分にチェックしておかなければならない。特に最近は、送り出し機関と受け入れ機関がグルになって技能実習生を搾取するケースもあるので要注意だ。

人手不足が深刻化する日本の労働者の働きぶりは、昔に比べるとかなりレベルが下がったと言われているが、それでも、外国に比べるとまだまだ「平均点」は高い。「会社に就職した後に教育すればいい」と考えている経営者は、きっと多いことだろう。でも、ベトナムをはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々や中国などでは、残念ながら、優秀な労働者とそうでない労働者の差が大きい。だからこそ、優秀で信頼の置ける人物を探すことが本当に重要となる。

そうした人物を探せるか否かが、事業の成否を左右する。だからこそ、事前の調査が何より重要なのだ。

そこで、例えば、毎日アジアビジネス研究所を使って調査を依頼し、その結果に基づいて企業の社長自ら現地に行き、納得できる人材や適地を選んではいかがだろう。現地に会社をつくる場合はもとより、現地から技能実習生、労働者を日本に連れてくる場合にも心がけておくべき原則だと思う。