20120111dd1dd1phj706000c 大武健一郎 (元国税庁長官、ベトナム簿記普及推進協議会理事長)

ベトナムで日本語による複式簿記の普及活動を始めて11年目に入った。ベトナムでのボランティア活動自体は、今年で14年になる。この間、ベトナムの方々との交流を通じていろいろなことを学んだ。

ベトナム人は日本人と同じモンゴル族に属しているが、ものの考え方は日本人と全く違う。江戸時代の260年間をはじめ、日本は長く平和を享受してきたのに対し、ベトナムは中国と1000年、フランスと100年、米国とは20年の間、戦火を交えてきた。中国とは、中越戦争でも激突した。まさに、ベトナムの歴史は、戦争の歴史そのものだ。拙著「『平和のプロ』日本は『戦争のプロ』ベトナムに学べ」(毎日新聞社)でも、戦乱の国から眺めた日本と日本人の姿をご紹介させていただいた。

東日本大震災の際、津波被害を受けた地域に古くから伝わる「津波テンデンコ」という言葉が有名になった。津波が来たら、家族のことは気にせず、おのおの自分1人で逃げるべし――という教えである。
一方、戦乱が長かったベトナムでは「戦争テンデンコ」が当たり前だが、国民性は全く異なる。

日本人から見るとベトナム人は協調性に欠け、自己中心的な性格に映る。日本人のように相手の立場でものを考えることは、全くと言っていいほどしない。さらに、他人の言うことを簡単には信じないので、人を信じてだまされた人にはあまり同情せず、「だまされた方が悪い」となる。とかく、他人の言うことをすぐ信じてだまされつつ、だまされた人を気の毒に思う日本人とは全く逆だ。だから、振り込め詐欺はベトナムで絶対に起こらない犯罪だろう。

その代わり、ベトナム人は災いや不幸を国家のせいにすることはなく、「仕方がない」と自分で勝手に納得する人が多い。その点も日本人とは大きく異なる。

私のボランティア活動は、ベトナムの気の毒な方々を救うことが目的ではない。ベトナムの指導者になる方々に日本のファンになってもらい、これから一緒に世界の平和と経済発展を担う「友人」になってもらうことだ。そもそも複式簿記は、平和の時代に作られた平和のインフラであり、だからこそ、日本で発展した、戦争の歴史をたどってきたベトナムでは、いまだ定着していない。

最近、産業界の人手不足からにわかにベトナムブームとなり、相対的に低賃金で手先の器用なベトナム人労働者に注目が集まっている。技能実習生だけでなく、専門学校や私立大に通う私費留学生も急増し、実質的に、彼らは労働者として扱われている。

でも、残念ながら彼らの日本語能力はまだ不十分だし、あろうことか、偽造の日本語能力検定書で入国して来る者もいるという。彼らを雇う日本企業も、前述した日越間の文化の相違を全く理解していない。まさに「取扱説明書なし」で新しい機械を導入しているようなものだ。このままだと、来日した実習生や留学生の間で日本への不満が急増する危険性が高い。

不満を強める外国人労働者

教え子の1人に、現在、日本の国立大大学院で国費留学生として学んでいる若者がいる。ベトナム人労働者たちの不満を電話で聞き取るアルバイトをしているが、先日、こんな話をしてくれた。

「契約にない長時間労働や、貝の殻むき作業など技能実習とはとても言えない単純労働ばかりで嫌になる。手取りの賃金が契約時の半分程度しかない――といった苦情ばかり。先輩や学校の先生から聞いていた日本企業の姿とは全く違う。このままだと『日越交流に人生をかけたい』と考えてきた自分の夢が、どんどん遠くへ行ってしまう」

歴史認識問題の影響で中国や韓国の方々に悪い印象を持たれがちな日本が、さらにベトナムをはじめASEAN(東南アジア諸国連合)の国々から同じ印象を持たれたら、我が国は「世界の孤児」になってしまう。

今春、改正入管法が施行され、外国人労働者が本格的に入国するようになる。場合によっては、日本で結婚して家庭を持ったり、日本人との間に子どもが生まれたりすると思う。こうした方々が十分な日本語を話せず、日本人とは全く違う対人感情を持ったままだと、長期的に日本国内で大きな亀裂を生む恐れがある。

ベルギーやフランスなど欧州域内で起きているテロは、アフリカから来たイスラム教徒の子どもたちが、自分たちの不遇な環境が温床になっていると言われる。日本でも外国人の負の感情が高じた場合、テロの温床が形作られるかもしれない。だから、外国からの労働者に対して、企業など雇う側が責任を持って日本語をマスターさせ、日本人の考え方を教えてやらなければならない。

私はこの10年間、研修生として来日した学生や、そのOBの若者を自宅に招き、バーベキューパーティーを開きながら、彼らの生活指導や相談に乗ってきた。でも、せっかく日本の大学、大学院に留学しても、日本人との付き合いの少ない学生たちは日本的マナーを学ぶことができない。我が家でも、礼を失する若者がいる。

日本の大学や大学院では文部科学省の指導により、英語で授業する学部・学科が多い。そんな場所に、英語力の不足しがちな日本人学生が入ってくることはまれなので、外国人だけで英語で授業を聞き、英語で会話しているというケースが多い。外国人にとっても不幸なことで、日本に留学しても日本語能力はアップせず、ましてや日本的マナーを学ぶ機会も少ないようだ。

もちろん、日本的マナーを学んだ先輩学生が少しずつ指導しているが、外国人労働者を雇う企業の方々にはぜひ、仕事を通して日本人の考え方を指導していただきたい。

こうした努力をしないまま、大量の外国人労働者が来日したら、日本企業の生産性は大幅に落ちて行くだろう。これから人口が減少する以上、AI(人口知能)などを活用するだけでなく、優秀な外国人労働者を受け入れて生産性を向上させることが必要だ。さもなければ、人口減と生産性ダウンで、日本のGDPは一層下降する。

優秀なベトナム人を日本ファンにして、日越両国の友好な関係を作るとともに、1人でも多くのベトナム人材に日本で働いてもらい、日本の生産性向上に力を貸してほしい。

いま国内で流行しているアニメ「夏目友人帳」や、大ヒットした映画「君の名は」を見て、日本の若者は涙し、感動する。でも、そうした日本人の感性を、外国人も理解してくれるとは必ずしも言い切れない。ベトナムへの進出や、ベトナム人労働者の雇用を考えている企業の方々には、そんな視点を忘れずにいてもらいたい。