20120111dd1dd1phj706000c 大武健一郎 (元国税庁長官、ベトナム簿記普及推進協議会理事長)

ベトナムに進出している企業の方はご存じかと思うが、ベトナムの所得税は米国やフィリピンと同様「全世界課税」になっている。つまり、本人が世界中の国々で稼いだ所得を合算し、居住国が課税するという仕組みだ。

簡単に言うと、日本人の方々がベトナムで1年間の半分、即ち183日間以上滞在していた場合、ベトナムの税制に基づいて課税額を計算し、すでに各国で支払った源泉所得税額を差し引いて、ベトナム国家税務総局に納税しなければならない。

パスポートを見ればベトナムに何日滞在していたか分かるので、183日間以上の方には、国家税務総局から納税の連絡がある。ベトナムの所得税率は日本と比べて高くはないが、賃金状況を反映して課税最低限が低い。日本で納税していても、さらにベトナムでも課税される可能性を考えておかなければならない。

日本での所得及び納税額は両国間の情報交換規定に基づき、ベトナム国家税務総局に通報される場合がある。日本での所得もベトナムで合算されることになり、そのときはかなり高額の納税額になる。それを避けるため、日本から派遣する従業員の滞在期間を183日未満に限定し、ベトナムで課税されないようにしている企業もある。

他方、従業員を数年間派遣しなければならない企業では、ベトナム滞在中に支払う給与は「現地の給与のみ」とし、日本での給与は支払わない場合も多い。あるいは後日、別の形で支払われる場合もあるようだ。

ちなみに、フィリピンでは国民の多くが海外へ出稼ぎに行く。フィリピン人が海外生活中に稼いだ所得と支払税額を帰国の際に申告させ、フィリピンの税制で支払うべき税金から、海外で支払った税金分を差し引き、フィリピンの税務当局に支払わせている。

そのため、フィリピンでは、出稼ぎ労働者が国税収入の1割以上を担っているともいわれる。ベトナムはいまだ、このような仕組みにはなっていないため、日本人をはじめ外国人に対してのみ、全世界課税を行なっているようだ。

ベトナムには59の省と5つの中央直轄市があるが、税金はすべて国家税務総局が担当していて、各省・市にある地方税務総局を指導しつつ、課税を行っている。ベトナムには、日本のような都道府県民税や市町村民税はない。各納税者に対する調査は地方税務総局が担っているが、外国人や外国企業に対する課税は国家税務総局に報告され、一元管理されるのが一般的で、各地方税務総局が独自に課税するケースは従来、ほとんどなかった。しかし、最近は、地方税務総局でも職員の国際課税の研修や、納税者の独自調査も始まっているようだ。

ところが、国家税務総局がやっているような日越間の調整が、必ずしもなされているとは限らない。国家税務総局から間違いを指摘される場合もある。なので、地方税務総局からの税務調査や納税通知については、国家税務総局と事前に相談するルートを持っていた方がいいと思う。

ベトナムの税制はいまだ発展途上にある。特に、所得課税は、簿記の普及が不十分ということもあり、日本のような申告納税がほとんど行われていない。個人事業者の場合、消費税分と所得税分を合算し、売上高の1%を納税するという簡易な仕組みになっている。その方が、消費税と所得税を別々に計算して納税するより安上がり、かつ簡易なので、適正な所得税を計算して納税するやり方は、ほとんど行われていない。

なので、法人成りして消費税と所得税を別々に申告納税するより、個人事業者のまま簡易な課税を続ける方を選択する事業者が多いようだ。相当大規模な事業を行っている事業者でも「個人経営」が多く、法人成りしている事業者は多くない。

こうした「欠陥」を是正するため、私は複式簿記の普及をベトナム政府に働きかけてきた。だが、いまなお、複式簿記や個人所得税が普及しているとは言えない。

もちろん、外資系企業は法人成りしているので申告納税が必要であり、当方の簿記講座を卒業したベトナム人たちが、その分野で活躍している。

ベトナムの国家財政は決して健全と言える状況にないので、国民の経済力が高まってきた今日、もっとベトナム人事業者から税収を確保しなければならない。また、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国間の関税が非課税になっていくので、関税収入も今後は減少するだろう。消費税中心の税制を構築してきたベトナムでは、消費税収が総税収の中心を占めている。今後は所得税や法人税をベトナム国民に根付かせ、その税収を高めていかなければならない。

ベトナムに進出している日本企業や、ベトナムからの人材を日本に受け入れている方々は、ベトナムの税制についても十分に学んでおくことをお勧めしたい